第24話・決戦のバトルフィールドへ

 ダンストパーティ当日の控室ひかえしつ

 ガンマはとあるSNSのサイトを閉じると、端末をカバンにしまった。


 色々なサイトを回りエゴサしてみたものの、やはり『チーム・キャラクター』の知名度は低い。


 理由は分かっている。

 実績がないからだ。


 いくらバグ技を発見した男や可愛い女の子がいようとも、誰もが認める功績を残さなければ人々の記憶には残らないのだ。


 そういう意味では今日のイベントは打ってつけである。

 何せテレビCMでも宣伝しているほどの規模。ダンストに携わっていない人の知名度も中々に高かった。


 ここで活躍すれば間違いなくガンマ達は有名になるだろう。

 そうなればストリーマーで食っていける未来も描ける。


 ガンマにとって今日は勝負の日だった。

 そしてそれは、シグマもまた同じだったようだ。


 彼女は隣で音楽の世界に没入している。

 目をつむり、頭はリズムを刻んでいる。


 が、不規則に足がそわそわと揺れていた。


 彼女は人気が落ちている状態。

 成功させたい気持ちはきっとガンマよりも大きいだろう。


 そして落ち着きが無いのがもう一人。


「フィーさん、私達の出番はまだでしょうか」

「まだですって。大体その質問3回目ですよー。緊張し過ぎじゃあないですかぁ?」

「だってこんなに大勢の人が居るなんて思わなかったですもん!」


 控室に設置された大型モニターを指しながらシータが放つ。

 画面には軽く万を超える人達が揃いも揃ってステージスクリーンに注目していた。


 今はようやくストリーマーのトーナメントが始まったところであり、ガンマ達の出番は3試合先だった。

 時間で換算するならあと1時間は始まらないことだろう。


「わ、私。お手洗いに行ってきます!」

「行ってらっしゃいませ」


 凄まじい勢いで部屋から出ていくシータを見送るフィー。


 彼女は他のメンバーとは異なり、まるで緊張した様子はなかった。


「フィーは萎縮いしゅくしてないんだな」

「アタシはここにいること自体が奇跡ですから。怖さよりもワクワクの方が大きいです」


 満面の笑みを向けられる。

 彼女の中にはガンマの強張りを解こうとする意図もあるのだろう。


「それは俺だって同じだよ。シグマさんの申し出がなければ出れなかったし」

「それはそうですが、アタシの場合はガンマ様の世界に無理やり乱入したようなものですし」

「自覚はあったんだな」

「あー、そこは優しく誤魔化すところですよー」

「事実だろ」

「そりゃあそうですけどー」


 ハムスターのようにほおふくらませるフィー。

 実に子供らしい素振りはいとおしさが溢れていた。


「お前は将来どうすんの? 独立してストリーマーになるのか?」

「まさか。アタシはそういう方面は向いてませんので。普通にお嫁さんになります」

「何か過程をすっ飛ばしてない?」

「気のせいでは?」


 何故かこっちが悪いように言われた。


「お前学生だろ? まずは進路の話が先だろ」

「そこは適当に選びますよ。学校を休んでいたせいで内申が低辺ということもあり、一般受験になっちゃいますが」


「えへへ」と後ろ髪を触るフィー。


「そうか。他にやりたいことはないの?」

「お嫁さんです」

「やりたいことないのか?」

「何で無視するんですかぁ!!」

「自ら地雷を踏みに行く馬鹿はいないだろ」

「あぁ、うるさい! 痴話喧嘩なら外でやりなさいよ!」


 イヤホンを手に取り、眉間みけんしわを作った金髪幼女が怒鳴どなってくる。

 どうやらヒートアップしたおかげで、ノイズキャンセリング機能を乗り越えてしまったようである。


「シグマはねぇ! この大会に賭けてるの! 絶対に爪あとを残さないといけないんだから集中させなさいな!」

「どうしてそこまで必死なんですか? 何か理由でもあるんです?」


 と、フィー。

 すると、「ちぇ」っとシグマが舌打ちをした。

 だが、怒りをあらわにしながらも心の中は冷静なようである。


「スポンサーが下りてからというもの、配信を続けていてもファンは徐々に減る一方なの。こうなったらストリーマーとしても先が見えてるわ」

「ふむふむ、勝ってご新規さんを取り入れるか、新たなスポンサーを引き込みたいと」

「そういうことよ。だから絶対に勝ちたいの」


 彼女の想いは理解出来る。

 何故ならガンマもまた配信業で成り上がりたいのだから。


「分かります。俺も勝って有名に――」

「私が居ないところで真面目な話を進めないで下さい。仲間外れは嫌です」


 ガンマが想いを口にしようとしたところで、お手洗いから戻ってきたシータが乱入してきた。


「アンタが席を外しているのが悪いんじゃない」

「それはそうですが」

「はい!」


 空気が悪くなりかけたところでフィーがパチンと手を叩く。


「折角ですから、全員気持ちをぶちまけましょう。ほらっ、シグマさんから」

「え、シグマはもう言ったじゃない」

「シータさんが不在だったじゃあ無いですか。ほらほらっ」

「もう強引ね。シグマは現状からい上がりたい。そのために勝ちたい! これでいい!」

「はい、次。シータさん!」

「えぇ、私ですか!?」


 次はガンマだと思っていたシータが狼狽うろたえる。

 それでもすぐに考える姿勢に移ったのは流石である。


「私は。私は弱い自分から脱却だっきゃくするためにここにいます。嫌な言葉に負けたくない。自分を成長させたいです!」


 力強く前を向くシータ。

 彼女の瞳には輝きがあった。


「はい、次はアタシ。アタシはこの時間を楽しみたいです! 将来に展望が持てなかったアタシが次のステージに行く活力を得るために」


 ハキハキとした声でフィーが続く。


 次のステージが何なのかは予想がついたおかげで、突っ込むことはなかった。


「最後はガンマ様です!」


 何を言うべきか一瞬考える。


 有名になりたい。

 バグ技を広めたい。

 お金を得たい。


 どれも合っているようでしっくりこない。

 本当に欲しているものは何か。


 分かっている。

 分かっているはずだ。


「俺は」


 たが、口にすると小恥ずかしかった。


「俺はこのメンバーで勝ちたい! 名誉とか知名度はもちろん欲しいけど、まずはこの面子で頑張ったことが正しかったことを知らしめたい!」


 言った。

 言ってやった。


 胸の中の想いをぶつけてやった。


 そしてほんの少し額から熱が引き、目の前がやけにクリアになった時である。

 仲間の笑みが視界に入った。


「言うじゃない、アンタ。嫌いじゃないわよ、そういうの」

「はい、私も同じ気持ちです!」

「流石アタシの推しです! やってやりましょう!」


 気持ちの良い返答にガンマの口元にも笑みが宿る。


(よしっ、イケる!)


「じゃあ行こう! チーム:キャラクターっ!!」


 手を前に出す。

 すると瞬時にガンマの甲に温かさが宿った。


「「「「おー!」」」」


 ガンマ達の想いが宙に舞った。

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