第20話・ステージセレクト
「アンタ、シグマと一緒にイベントに出る気はない? イエス以外の返答は要らないわ!」
突然ガンマの元にやって来た金髪幼女が無茶を言う。
彼女もまた配信を直前までダンスト配信でもやっていたのか、スポーティな格好だった。
そして人見の姿を確認するなり、真顔で言葉を
「アンタ女子高生だけでは飽き足らず、受付嬢にまで手を出したの?」
「違いますよ! 誤解されること言わないでください!」
「あら。てっきり、もうやったもんだと思ってたけど」
「そんなわけないじゃないですか、犯罪ですよ! てか、本当に何しに来たんですか貴女は!」
彼女は悪びれる様子も無く、「そうだったわ」と一言つぶやいた。
その後、彼女は手の中の携帯端末をこちらに見せてきた。
「これよこれ!」
「ダンストパーティ?」
「そう。以前のチャリティイベントのような感じじゃなくて、競技性の高いイベントよ。ここで勝ちにいくつもりはない?」
説明を聞きながら、内容を読み込んでいく。
どうやら誰でも参加出来るものではなく、招待制の大会のようだ。
賞金は出ないものの、商品は中々に豪華である。
「でも俺、招待して貰ってないですよ」
「そこはシグマの分があるから大丈夫よ」
「どういうことです?」
頭の上に疑問符を浮かべていると、彼女は参加人数が記載された個所まで端末をスクロールした。
「1チームの参加人数は4人なの。で、1人でも招待状を持っていれば他の人間は必要ないわ」
「なるほど。だからシグマさんの分だけで良いと」
「そういうわけよ。シグマのチームに入ってみたい? 損はさせないわよ」
端末片手に不敵な笑みを見せてくる。
大会への参加権は
「俺なんかで良いんですか? 俺、チーム組んでやったこと無いですよ?」
ダンストで一番メジャーなジャンルは4人チームでのダンジョン攻略対戦である。
4対4でどちかのチームが先にダンジョンを踏破出来るか、または相手チームを全滅させるかの勝負だ。
人数が増えることで必然的にダンジョンの規模が大きくなり、全員がランダム配置されることで戦略性も高まっている。
ガンマが普段行っている1人用のタイムアタックとは別スポーツと言ってもいい。
「最低限知識があれば誰だって良いわよ。ストリーマー部門での参加だから、レベルはそこまでだろうし」
「じゃあ他のチームメイトは?」
「今から探す。何ならその子達でも構わないけど」
言って、彼女はガンマの後ろの少女達を指さした。
「アタシも出て良いんですか!」
どうやら話を聞いていたらしい。
フィーが
まさか自分に関係のある話とは、夢にも思っていなかったようだ。
ただガンマはそれよりも、いつの間にか現実に戻ってきていたことを驚いたが。
「構わないわ。ビジュアルが良い子が集まれば注目も集まるでしょうしね。ストリーマーの本分は勝敗よりも、いかに人に見て貰えたかだもの」
「分かりました! 出ます!」
「アンタはどうするの、人見」
幼女先輩が黒髪巨乳へと目を向ける。
「私には無理ですよ、そんなの。他の人を当たってください!」
「そう? 大会まではまだ1ヶ月以上あるわよ? ダンストの腕が立つやつより、見知った相手の方が正直やりやすいんだけど」
「急に大会なんて出られませんって。こんな私が進んで人前に出るなんて」
「あ、そこを気にしてるのね」
シグマもこのジムの常連だけあって人見とは気心の知れた中のようだ。
シグマは人見の方に近付くと、怪しい笑みを差し出した。
「今回はジョブを選べるし、顔を隠せる職業を選べばいいわ。何ならアバターでの参加も出来るわよ」
「で、でも――」
人見が逃げるように言葉を濁す。
見たところあまり気乗りしていないようだ。
始めたての初心者なのだから当然なのだが。
「思い出作ると思って出てみましょうよ! きっと楽しいですよ!」
今度はフィーが横から入ってくる。
「フィーさん」
「こんな経験、
「そうそう。良いこと言うわねアンタ」
「ガンマ様も一緒にやりたいですよね?」
と、赤髪が話を振ってくる。
周囲を固めて逃げられなくするやり方はあまり好きではなかったが、欲には勝てなかった。
「俺も人見さんと出たいです」
「ガンマさん……」
人見がモップを身体に預け、何かを考える仕草を取る。
そして、彼女が自分の世界に入ってから約10秒後。
「分かりました。出ます」
「そうこなくちゃ!」
シグマが強く指を鳴らす。
「ガンマはシグマの連絡先知ってるわよね? グループ作ってコミュニケーション取れるようにしておいて」
「おっけーです」
「じゃ、細かい段取りは次の機会で。解散!」
言いたいことだけ言って、スキップでもするかのように部屋から消え失せる幼女。
数分で決まったこととは思えないほどの情報量に、ついつい笑みが
「相変わらず勢いに生きてる人ですねー」
「あの人の良いところでもあるけどな。それにお前も似たようなもんだろ!」
「そんなこと無いですもん! アタシにはインテリジェンスが残ってますもん!」
「ははは、こやつめ」
「あー、さては全然信じてませんねー!!」
「ぷっ、くくっ」
少女を嘲わらっていると、ふと近くから異なる笑い声が聞こえてきた。
この場には勿論3人しかいない。
ガンマでもフィーでもないとすると、答えは自明の理だった。
「あ、すみません。あまりにお二人のコントが面白くて」
「「コントじゃありません!!」」
息の揃った声を前にして、人見はまたクスリと笑った。
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