第19話・上達
「こんな感じで大丈夫でしょうか?」
「はい、言うことありませんよ。全然上手いじゃないですか!」
「いえ、ガンマさんの教え方が良いのかと」
人見がはにかみながら言う。
実際彼女からは鈍臭さは感じられず視野も広かった。
直感的ではなく、論理的なプレイヤーだ。
自分がどのルートを通ればゴールまで早く辿り着けるかを判断して実行している。
まだまだ練度は低いが、将来有望な走者である。
そして、何より。
(見た目の爆発力が凄い)
ショートパンツ姿も素晴らしいのだが、やはり目を引くのは盛り上がったシャツの形状。
大きな二つの膨らが揺れるごとに、ガンマの心もまたゆらゆらと
「アタシはどうでした! アタシは!」
呼んでもいないのに参加しているフィーが寄ってくる。
当初の目的では、人見に彼女の暴走を制御して貰いたかったのだ。そのため、彼女がここにいるのは何ら不思議ではない。
だが、それは少し前の話。
人見のことを考えると、本当は居て欲しくなかったのだが無理に参入してきたのである。
人見が許してくれなければ、今頃荒れに荒れていたことだろう。
「フィーさんの動きは凄いですね。とても
「ふっふっふーん。そうでしょう、そうでしょう! アタシの腕もプロ級に近づきつつ――あいたっ!?」
「調子に乗るな」
ふんぞり返る赤髪の頭を軽く叩く。
それが気に入らなかったのか、頬を
「むぅー。アタシにだけ厳しくないですかぁ?」
「お前も初心者みたいもんだろうが。威張るな」
「良いじゃあないですかー! 事実アタシも上手くなったでしょう!」
「すーぐ図に乗るだろ。そのせいで何回ミスってきたと思ってるんだ」
「だってー」
「だってもクソも無い」
更に膨れるフィー。
最近は推しとの会話に慣れてきたのか、以前のように突飛な言動が減っていた。
「駄目ですよ、ガンマさん。仲間にそんな酷いことを言っては」
「うぇ!?」
「ガンマさんから見たらまだまだかもしれませんが、私の目から見たフィーさんの行動力は尊敬に値するものがあります」
「うぅ、人見さん」
「上手く出来たところは褒めても良いのではないでしょうか」
「人見さーん!!」
フォローされたのがとても嬉しかったのか、フィーは人見に勢いよく抱きついた。
女子高生の斜め上の行動に、人見は驚いた表情を浮かべていた。
「アタシ人見さんのこと勘違いしてましたー!」
「はは、どう思われてたかは敢えては聞きませんからね」
「おっぱい女神だと思ってましたー」
「……人の話聞いてました?」
胸に顔を埋めるフィー。
人見は彼女に対して困った顔をすると、こちらに
まるで「ガンマさんも同じことを思ってないですよね?」と、言わんばかりに。
受けて全力で首を振る。
(フィーのことだから女神は女神でも性格の悪い奴想像したんだろうなぁ。それこそ邪神みたいな)
と、見当外れな考えをガンマは抱いていた。
彼女が気にしているのは胸だろうに。
「そろそろもう一度行っとこうか。フィーは常に一手先を意識。逆に人見さんはもう少し直感で動いてみてください」
「了解です!」「はい!」
元気に溢れた返事を聞いて、ガンマは「NEW GAME」のボタンを押した。
眼前に現れたのは庭園ステージ。
壁が草木で彩られており、雑魚敵の出現率が低い代わりに迷路要素が強いのが特徴的なダンジョンである。
「フィーさん、
「人見さん反応が遅いです! 迷うと停止する
彼女達がお互いの欠点を述べながらも突き進んでいく。
相性が悪いように見えるが、思ったよりも進行ペースが早い。
指摘された個所は徐々に修正していっているからだろう。
行動速度に劣る人見の代わりにフィーが通路の確認を優先。そして、少女が出しゃばり過ぎないように大人が制御している。
(俺とやってる時より動きが良いじゃないか)
特筆すべきはフィーだ。
未熟ながらも、パートナーの為に動くという姿勢は確実にダンジョン攻略に
「フィーさん。反対に回り込んでください」
一方、人見の指示出しも的確だ。
(急造コンビなのにやるなぁ)
気付けばあっという間にボスを倒し、攻略が済んでいた。
室内が初期化された状態に戻ると、彼女らは息を乱しながら喜んでいた。
「やりましたね、人見さん!」
「はい!」
仲良く両手を合わせる二人。
こういう仕草は女の子特有である。
「どうでしたガンマ様!」
汗に
「お、おう。中々良かったんじゃないか」
汗で肌に張り付いた服装が健康的な体のラインを強調していて、思わずドキッとしてしまう。
そのせいで自然と雑な言葉を返してしまった。
(素のスペック自体はかなり良いの忘れてた)
良かったところは素直に褒めてあげる。
そう思っていたはずなのに、実際に口から出たのは随分と荒っぽい言葉だった。
「ふるわぁ!?」
しかしながら彼女はご満悦だったらしい。
人見がドン引きするぐらい背中を反らしていた。
「ど、ど、ど、どうされたんですかフィーさん!?」
「気にしないで下さい。持病みたいなもんなんで」
「えぇ……」
可哀想な目で人見がフィーを見る。
しかし当の本人は天にも昇るような顔で天井を見ていた。
「人見さんの動きも凄く良かったですよ。最後のボス戦なんてキレッキレでした」
「そんな。大したこと無いですよ」
照れ隠しをするように小さく微笑む人見。
しかし、ふと時計を見るなりハッとしたような表情を見せた。
「あ、そろそろ終了時間じゃないでしょうか」
「もうこんな時間でしたか。出ましょうか」
レクチャーしているうちに結構な時間が経っていたらしい。
気付けば予約終了時間10分前だ。
「おい、フィー。掃除するぞ――って、こうなったら中々帰ってこないんだよな」
「あはは、私達2人でやりましょうか」
「まったく。後できつく言っときます」
システムを切り、モップに手を掛ける。
その瞬間、部屋の出入り口が力強く開いた。
「ガンマガンマガンマガンマー!!!!」
金髪のちびっ子が
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