第17話・偉大なる先輩

 たまには他者から刺激を貰うことも大事だろう。


 と、思い、ガンマは自宅の端末からとある配信に入った。

 配信主は彼が良く知る人物であり、ガンマが有名になるきっかけを作ってくれた人である。


『今日も良い天気ね、愚民ぐみんども! この世を恨むしか能の無い哀れな豚共の為に、今日はアンタ達の悩みを聞いてあげるわ。泣いて喜びなさい!』


 思わず端末の電源を落としそうになったところをこらえる。


 ちなみに今日の天気は荒れに荒れている。

 ガンマが外出せず家に居るのもそのためだ。


『このシグマに汚い言葉をぶちまけたい最初のゴミは誰? 早くしなさい』


(ダンスト外の配信だとこんな感じなのかあの人)


 ダンストの配信はフィーと見たことがある。

 ストイックにタイムを詰めていくスタイルで、そこまでリスナーと絡む感じではなかった。


 このギャップの差が面白いのかもしれない。


 その証拠にチャンネルフォロワー数はガンマの10倍以上ある。


(炎上してもこのフォロワー数なんだから本当凄いなぁ)


『はい次。らっせーさん投げ銭ありがとう! えっと、仕事が辛くて生きるのが辛いです。どうしたら楽しくなりますか、と』


ぺこり:分かるー

基底ちゃん:俺も知りたい


『甘えなさんな。お前だけが辛いわけないでしょ。誰もが大なり小なり悩んで生きてんだから、お前もその葛藤かっとうを受け入れなさい』


(厳しいなぁ、おい!)


 しかし、言っていることは至極しごくまともなところが彼女らしいといえばらしい。


『ま、でも、悩むくらいならこれからもシグマの配信を見なさい! 悩むのがバカらしくなるくらいのエンタメを見せてあげるわ!』


らっせー:はい!! 一生ついていきます!


 ファンのメッセージを見て心から凄いと思う。

 彼女はしゃべり方こそ乱暴だが、しっかりと視聴者の要望に応えていた。


 相手がして欲しいことを出来る限り叶えるスタンスは今のガンマには無いものだった。


「俺も聞いてみようかな。チャンネルアカは......やめとくのが無難か」


 アカウントを配信チャンネルのものから個人用のものに切り替える。


 一度コラボして貰ったが、あまりれしいのも良くない。

 それ以前に妙な悩みを持っていることを人が大勢見ている場で公表したくなかった。


マンガン電池:こんばんわー、初見です。あることをお願いをしたい相手がいて一度断られてしまいました。その際、途中まで感触は良かったのに急に雰囲気が悪くなった感じがあります。どうしても誘いたいのですが、アドバイスをお願いできませんでしょうか?


 全然他人の振りをして投げ銭と共にメッセージを送ってみる。


『えー、次。マンガン電池さん、投げ銭ありがとうございます。あることをお願いをした――』


 すると、またたく間に返事が飛んできた。

 内容もしっかり読んでくれており、お腹の奥にざらついた熱が走った。


『なるほどね。まあ、この手のあやまちの答えは1つ。無理!!!! 素直に諦めなさい!!』


(ぐええっ!?)


 余りに情け容赦ようしゃの無い回答に、ついベッドの上でむせてしまう。


『深いところまでは踏み込まないけど、大体告白か仕事の依頼でもして玉砕ぎょくさいしたってところでしょう」


「合ってるー。エスパーかこの人!?」


「途中までは感触が良かったってことは、最後の方に相手のかんさわるようなことでも言ったってところね。2度目は最初よりも厳しく接するでしょうし、相手の気持ちもみ取れないような奴が成功するとは思えないわ』


レナ:初見さんがバッサリ切られてる

全てをつかさどった者:そこがシグマちゃんの良いところだからなぁ

わかめ:初見さんへこまないでね!!


『大体こんなところで相談なんてする前に頭を使いなさいな。だからダメなのよ』


 ボコボコだ。

 ガンマの精神力は既にゼロに近かった。


『普通ならここで終わるところだけど、初見ということでシグマからのアドバイスを上げるわ。有難く受け取りなさい!』


毛:流石俺達のシグマちゃんだぜ!

EIM:不安しかないけどな!


『どうしても諦めたくないのなら考えなさい。自分の都合よりも相手がどう思うかを必死に。考えることでしか逆境はね返せないわよ!!』


EIM:すげぇ! むちの次にあめとか珍しい! 今日は雪か!

土器:いや、槍でも振るかもな


『槍って、アンタ達シグマのことを何だと思ってるのよ!! ぶっ飛ばすわよ!』


 リスナーの悪乗りによってガンマの質問タイムは終わりを告げた。

 一応視聴自体は続けてみたものの、まったくといっていいほど頭に入らなかった。


「考える、か」


 動画アプリを停止し、端末をベッドの上に放り投げる。

 そして天井を仰ぎ見ると、ガンマは人見との会話を頭に浮かべた。


 ぼろクソに言われたものの彼女の発言は的を射ている。


 自分の都合ばかり考えていて、人見のことは二の次になってしまっていた。

 本来ならば真っ先に彼女の気持ちを尊重しなければならないのに。


「バカだったなぁ」


 ここ数日の自分の行動を振り返る。


 自分勝手な思考。

 相手の迷惑を考えない行為。


 穴があったら入りたい気分だった。


 ガンマは押し潰されそうなほどの思いを胸に抱きながら体を起こすと、投げた端末を再び手に取った。

 そしてメモアプリを起動すると、人見に言わなければならないことを書き出した。

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