第16話・トライ&エラー

「という訳なんですが、何か良い案無いですかね?」


 ダンジョンの出口の前でリスナーに向かってたずねる。

 話題はどうやったら人見をチームメンバーにスカウト出来るか。


 彼女のプライバシーを考慮し、具体的な人名や経緯は伏せている。

 が、考えてもらうにあたって最低限の情報は伝えていた。


 しかしながら、リスナーを利用するのも良いことばかりではない。

 人見もまたこの配信のリスナーである。


 彼女に対応内容がバレてしまう可能性があるが、そこは彼女のバイトの時間を狙って配信を行っていた。


 意見を募るだけならもっとより良い方法もあるだろう。

 だが、周囲の人間に相談出来る相手が居ない以上、ガンマには最早これぐらいの手段しか思いつかなかった。


ぺっぷ:こういう時は金の力だ


「出来ればやってるんですよねー」


一輪:金はともかくプレゼントはどう? その人の好きな物とか


「プレゼントかー。急におくっても嫌がられそうですし、何なら受け取ってくれないんじゃないですかね」


フィー:アタシはいつでもプレゼント募集中です!


「うん、お前は学業に集中しようか。今授業中だろ」


 狂信者の発言を一蹴して次に行く。


PARA:不愉快だと思われたならまずは謝るのが先では?

みみーず:何が原因なのか分からないのに?

コンコン:こういうのは大方余計なことを言ったのだと相場は決まってる


 コンコンという視聴者の言う通りである。

 それまでは悪く無かった空気が最後の最後に悪化してしまった。


『フィーのストッパーになってください!』


 この言葉の何がが悪かったのかが分からない。

 要望を簡潔に伝えたこれが何故いけなかったのだろう。


 恐らくこの言葉が原因なのだが、ガンマにはさっぱり分からなかった。


Dod:とりま謝ってきたら?


「なるほど。行ってきます」


線:え?

アカ:今から?


 配信を切らずにダンストのみを停止し、ガンマは部屋の外へと飛び出した。


りんるー:何だこの時間

3671:分からんが駄目そうってことは分かる

レイライン:んじゃ早そうだな


 視聴者の予想通り、ガンマは5分も経たずに戻ってきた。


「また断られましたー!」


レイライン:知ってた

アカ:何でそう変な方向ばかり思い切りが良いのよ!

ゾル太:俺は主のそういうところ好きだぞ


 嘲笑ちょうしょうと弁護のコメントが半々といったところか。

 中には凄い勢いでガンマが悪くない旨のコメントをする者がいたが、ガンマは拾わなかった。


「謝罪案はやっぱり原因が分からないと厳しそうです」


みみーず:だから言ったのに

レイライン:もうやっちゃったものは仕方ない。切り替えていこう


「レイラインさんの言う通りですね。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるの信念で行きます」


アカ:当たる前に玉砕しそうと思ってるのは私だけ?

3671:シー!!


 そうしてリスナーと議論を交わし続けるガンマ。

 倫理的りんりてきに到底実施出来ない案も多く、大体は行動に移せないものばかりだった。


線:最初に対価を伝えてみたら? バイト代渡すとか


「採用」


 速攻で受付へと向かい交渉してみる。

 だが、すぐさま断られてしまった。


 金銭では応じてくれ無さそうだった。


一輪:素直に土下座してみたら?


「採用」


 休憩中の人見を狙って実行に移す。

 こちらもまた全力で拒否られてしまった。


 そもそも拒絶された結果、話し合いにすらならなかった。


「人をスカウトするのって難しいですね」


みみーず:いや、これは主がアホなだけ

PARA:相手の迷惑も考えないと


(うっ……)


 正論。

 まさかき付けてきたリスナーに諭されるとは思わなかった、とガンマの気分はへこんだ。


 だが、こればかりは視聴者の言う通りである。

 自分のやりたいことばかりが優先されて、何よりも人見がどう思うかまで気にしていなかった。


「確かにそうですね。これじゃあ俺が上司に受けてたことと同じことをしてますね。ド反省事項です」


りんるー:理解したなら大丈夫

3671:次に活かしてこう

アカ:そそのかした私達も同罪だしな


 温かいコメントである。

 さっきまで厳しい言葉が多かったのにも関わらず、だ。


「ひとまず頭を冷やします」


 謝りに行こうかと思ったが、既に土下座をかましたばかりだ。

 冷静になるためにも、一旦日を置いた方が良いだろう。


フィー:というか、アタシに相談してくださいよ!!!! パートナーじゃあ無いですか!


「?」


フィー:何ですこの間。絶対首をかしげてますよね!

アカ:フィーちゃん勉強しよ……

みみーず:昼間から配信に張り付く俺達みたいになっちゃうよ

3671:私は休みだから。一緒にしないで

PARA:そうだそうだ! 自宅警備っていう立派な仕事があるんだ!


 チャンネルの視聴者は年齢層が高いようだ。

 とは言っても、平日の真昼間から配信をリアルタイムで見れる人間など、一部を除けば無職か休みを取得している人ぐらいだろう。


「学生の戯言ざれごとは放って置くとして、真摯しんしに向き合わないといけないですね」


フィー:放って置かないでください! 泣きますよ(ToT)

アカ:もう泣いてるやん

田中太郎:ハァハァ。フィーちゃんの泣き顔尊い

PARA:こいつには何が見えてるんだ?

3671:おまわりさんこいつです


 ここからはコメント欄が無駄に騒々しくなってしまい考えるどころではなかった。

 この配信で得られたものは、人見から不信感ぐらいだろう。


 30分後、配信を終えたガンマがアーカイブに今日の配信を残すことはなかった。


―――――――――――――――――――――

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《ガンマのバグ技チャンネルからリスナー様へのお願い》


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