第11話・駆け抜ける世界
『成功しました!! これが
フィーの絶叫が
明らかにテンションが上がっているのが分かった。
それもそうだろう。
やりたかったことがリアルタイムで見れ、それも実況者として参加しているのだ。
ガンマのファンとして、これほど彼女にとって嬉しいことは無いだろう。
が、気分の上がった彼女に視聴者はついていけてないようだった。
ケイ:何が変わったんだろう?
スピーク:単にホバー移動しているだけに見えるが
財布:わけわかんないよー
そうだ。
視聴者の言っていることは正しい。
何せこのバグ技をまともに知っているのは技を使用するガンマと、それを見てきたフィーくらいのものなのだから。
『アタシ一人盛り上がってしまって失礼致しました。解説致します』
と、落ち着きを取り戻したフィーが帰ってくる。こういう切り替えの早さも彼女の長所である。
『この憑依という技は、
正面には異なる幽霊が
そして、ガンマに気付いた敵は弾を撃とうとしていた。
ガンマの
攻撃を喰らえばゲームオーバーになってしまうというのに、
ガンマは回避行動を取らなかった。
たんたん:!?
弾がガンマの目の前へとやって来る。
しかしながら、幽霊の攻撃は何もなかったかのようにすり抜けていった。
東西南北:ええええええええぇぇぇぇぇぇ!!
ヒドゥン:今当たったやん!
クー:ダンスト壊れたー!!!!
『はい、最初のメリットについてですが、何と敵モンスターの攻撃は効きません。これは恐らく、憑依を行っているプレイヤーは敵モンスターの判定を受けているからだと思います』
硝子の子:マジで!? 無敵の人じゃん
不整脈:言い方www
今日:すげーけど難しさに対して時間掛かり過ぎじゃね?
視聴者が抱いた感想は多くの人間が思っているらしい。
同じようなコメントが
『技の手間と恩恵が一致しない。とても良い着眼点ですね。初級者ダンジョンはそもそも敵が強くありませんしね』
イヤホンス:やっぱそうじゃん!(フラグ)
スリの金冶:見た目のインパクトだけってことかなー(棒)
ゆかりん:なんてったってホバー移動だもんな! いけてるぜ!(茶番)
盛り上がる視聴者を
ここまでのペースは極めて平均的。
配信者の中ではかなり遅い部類に入るだろう。
そう。
この技は壁抜けのように道中のメリットは無いに等しい。
敵モンスターの無視が難しい中級者以上のダンジョンと違って、初級者ダンジョンは回避して進むことが容易なのだから。
『えー、この技の真価は最後にあるのです! もう少しで最深部がやって来ると思いますので、ご注目下さい!』
おーい、ケツ:フィーちゃんがそう言うなら俺は信じるぜ!
コメントを気に掛けながら無機質な通路を走り抜ける。
攻撃が当たっても死なない、今のガンマは余裕で溢れていた。
(反応が楽しみだな)
他人事のような気持ちを抱きながらとうとうゴールを守るボスの元へと辿り着いた。
幽霊を巨大化させたような敵。
『親分ゴースト』というこのダンジョン最大の敵が今にもガンマに襲い掛かろうとしていた。
『先程も言いましたが、目を
普段ならば厄介なボスである。
振りが大きく隙はでかいものの、攻撃力もまた凄まじいものがある。何より、幽霊という特性上こちらからの物理攻撃が効きづらいのだ。
どれだけ早いペースで道中を駆け抜けてきたとしても、親分ゴーストに泣かされてきた走者は多いだろう。
「ふぅー」
強く息を吐きながらボスの前に出る。
当然親分ゴーストは攻撃を振ってくるが、それは憑依の最初の特性で意味を成さない。
そうして何もなかったようにボスに接近する。
そこから親分ゴーストの中心に到着したところで、事件は起きた。
車年:はああああああああああっっっっ!?
チセ:なんでえぇ!?
そしてガンマは悠々自適にそのまま走り抜けると、眼前にCLEARの文字が表示された。
『はい、ここでタイマーストップですね。お疲れ様でしたー』
峠のマフラー:はっや! 世界レコードじゃん!
ユザワ:解説はよ!
かさかさ:ヤバすぎんだろ!!
『ではご期待に沿いまして。この憑依という技。ボスモンスターの内部に入ると、なんと一撃で倒すことが出来ます』
嬉しそうにフィーが語る。
ガンマは乱れる息を整えながら、彼女の言葉に耳を傾けていた。
『これは推測ですが、モンスター同士は同じ位置に存在出来ないことで対消滅しているのだと思います』
こち:対消滅
岩塩:ようこんなの見つけたな
『このボスは他に比べて倒すのに時間が掛かります。だから時間を掛けてまで憑依する必要が合ったんですね』
フルック:さらりと構文きた
ぺろぺ:フィーちゃん中身おっさん説
『はい、説明が終わったところで走者のガンマ様に完走した感想を頂きましょうか』
予定通り振られる。
これだけの視聴者の中でのコメントは緊張する。
しかし今は達成感のほうが上回っていた。
ガンマはマイクをオンにすると、姿勢を正し口を開いた。
「走者のガンマです。まずはご試聴頂きありがとうございます。正直不安でしたが、何とか無事走り切れて良かったです」
ケイ:本当凄かった
ロルロ:8888888
「また、憑依はかなり運が必要なのでほっとしてます。皆さんとフィーさんのお祈りが通じたのだと思います。ありがとうございました!」
もろっこ:お疲れ様でした!
どどど:一気にファンになりました!
追いきれないほどの温かいコメントが次々と流れていく。
体験したことのないことに、ガンマの心はすっかり熱くなっていた。
『はい、ありがとうございます。今流れていますテロップにガンマ様の配信チャンネルが貼ってありますので、宜しければフォローをお願い致します』
ロル:秒で登録した
ケイ:俺もー!
『それではこれにて締めさせて頂きます。次の走者はマーク4さんです。
フィーが
ガンマもまた改めて背筋を伸ばした。
『ではでは、ありがとうございましたー』「ありがとうございました!」
二人のお辞儀と共にカメラの電源が一旦落ちた。
ガンマとフィー。
お互いに違う場所に居るはずなのに、彼等は同じ表情をしながら天井を
この日、新たな伝説が生まれた。
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