第8話・次のステージ

 結論からいうと、シグマとのコラボ配信は相当な影響だった。


 コラボ配信をした当日からチャンネルのフォロワー数がうなぎ上りである。

 彼のチャンネルの唯一性ゆいいつせいが功をそうしてか、同時接続数は3桁台に乗る日も珍しくは無い。


 たった数日でここまで多くの人に見られることになるとはガンマは想像だにしていなかった。


田中太郎:すっげー。こんな技良く気付けたなぁ

ベンジャミン:今度試してみよ

YASU:ここまで滑らかに仕上げるのにどれぐらいの時間を要したんだ……


 何時もと変わり映えのしない配信であっても、このような肯定的なコメントが多い。

 これは何よりも有難く嬉しいことだった。


ほむら:解説用動画が欲しいです!


(動画かー。どうだろうなぁ)


「動画編集やったことないんですよねー。ちょっと勉強してみますね」


 こういう希望も徐々に増えつつある。

 全てが全て期待に沿えるわけではないが、出来るだけ頑張ってみたいという気は勿論ある。


YASU:編集なら外注の手もアリ


 更にアドバイスまでくれる。

 それが役に立つかどうかは別として。


アザト:こんなチートプレイに動画なんて残す必要ないって

アザト:ゴミ量産してどうすんの?


 しかし良くないこともある。

 アンチが出始めたのだ。


 ことあるごとに「チート」だの「トリック」だのと動画を妨害してくる。

 発信しているのは極少数の人間であることは理解しているが、いわれの無い暴言をぶつけられるのは中々に来るものがあった。


 最初の頃はフィーが真っ先に突っ込んでいったものだが、今はチャンネルから追放するようにしていた。


 アンチ自体は歓迎だが、攻撃してくる者は別だ。

 本人の文句よりも、怒り狂うフィーをなだめる方が疲れる。


 アンチよりも狂信者の方が面倒で怖いのだ。


「はい、じゃあ今日の配信を終わろうと思います。ご視聴ありがとうございましたー」


 お決まりの台詞と共に配信を切る。

 そして部屋の電源を落とすと、タオル片手に休憩室へと向かった。


「お疲れ様です、ガンマ様」

「ああ、お疲れ。何やってんの?」


 最早いないことの方がこの頃心配になってきた赤髪の少女に向かって問いかける。

 彼女は「よくぞ聞いてくれました!」とばかりに、操作していたタブレットをこちらに向けてきた。


「先程動画が欲しいってリクエストあったじゃないですか! ネタになりそうな配信をピックアップしてました」

「手が早いなー」

「即断即決が信条ですから」


 ガンマに笑顔を見せると、彼女は再び液晶画面に目を落とした。


 一週間にも満たない時間しか共に過ごしていないが、彼女はとても優秀だ。

 好きなことには脇目わきめも振らず突っ走れる性格のおかげか、ガンマの知らないことをたくさん知っている。


 その実直さゆえに助けられている場面が多い。

 しかし、妄信もうしんさに被害を受けていることも多いのも事実だった。


(喋らなければ可愛い奴なんだがな)


 スポーツドリンクに口を付けながらフィーを見る。

 画面に集中する彼女は綺麗だった。


「ガンマ様!!」

「ぶっ!?」


 急に呼ばれ、思わず口の中に入れていたものを吹き出しそうになる。


「いきなりどうしたんだよ」

「これですこれ! ガンマ様にぴったりのイベントが開かれるようですよ!」


 彼女が提示する画面にはダンジョンの画面をバックに、疾走感しっそうかんに溢れた男性が描かれていた。


「ダンストRTAin日本?」

「はい、初級者ダンジョンを対象にしたタイムアタックだそうです。チャリティーイベントのようなので、ちょっとした賞品が出るだけのようですが」


 つまり慈善活動じぜんかつどうの一環である。

 協賛している企業のグッズ売り上げの何割かが社会貢献を第一とした団体に寄付されるようだ。


 中々盛況なイベントらしく、今回で4回目の開催のようだった。


「シグマさんとのコラボでそこそこフォロワー数が増えましたが、正直まだまだです」

「1000倍以上に増えたけど元が1だもんな」

「はい。このイベントで活躍出来ればまだまだ伸びますよきっと」


 嬉しそうにフィーが言う。

 彼女の提案は有り難い。だが同時に引っ掛かることもあった。


「フィーはそれでいいのか?」


 突然の問いに少女が首をかしげる。


「何のことです?」

「いや、フォロワー数が少ない方が配信で俺と絡める機会も増えるのにと思って」


 純粋な疑問だったのだが、彼女にとっては取るに足らない質問だったらしい。


 フィーは手中のタブレットペンシルを鮮やかに回転させると、あごにペン先を当て答えた。


「だってリアルで推しと会話出来てますから。これに勝る幸せはそうそうありません」

「そ、そうか」


 真顔で言われるとそれはそれで照れる。


「それにアタシ、ガンマ様の最古参オタクですから。ぽっと出の連中とは格が違うってもんですよ」

「その割には最近配信のコメントが謙虚けんきょじゃないか?」

「新参者にゆずってやってるんです。古参が毎度毎度出張っては新規が嫌厭けんえんしてしまうでしょう?」


 彼女の言うことは正しい。

 誰だってつまらないことでマウントなんて取られたくない。それが年期だけなら尚更だ。


「第一アタシが一番ガンマ様のことを想ってますしね!」

「良かった、気持ち悪いフィーが戻ってきた」

「アタシを何だと思ってるんですかぁ!」

「やべぇ奴?」

「シンプルに酷い!?」

「あまりに良いことばっか言うから悪いもんでも食ったのかと」

「何時もまともなこと言ってるじゃないですか!?」

「いいとこ3割ぐらいじゃね?」

「えぇ!? 4割は言ってますよ!」

「やべーこと言ってる自覚はあんのかい」


 ぷんすか怒るフィーを適当にいなしながら彼もまたイベントの詳細を確認する。

 その中には『解説役の参加もOK』の旨も記載されていた。


 瞬間、悪寒にも似た嫌な汗がガンマの背中を伝っていった。


―――――――――――――――――――――

現在のチャンネルフォロワー数:1773


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