第6話・コラボへの道
「大物配信者とコラボしましょう!」
「はぁ」
休憩室の椅子の上でガンマは興味が無さそうな声を出した。
フィーの言っていることがあまりにも現実が無さ過ぎて、「無理だろう」という気持ちが先行してしまったのだ。
「出来ると思ってませんね?」
「そらそうよ。こっちは大物配信者側にメリットを与えられないもの」
企業案件と同じくらいの報酬。
ダンストの攻略情報。
他の配信者へのコネ。
思い付く限り大物配信者が欲しいであろうものを挙げてみたが、どれもガンマには無いものだ。
そもそもこんなものを持っているなら、ガンマはストリーマーとしてもっと活躍していることだろう。
「そんなことはありませんよ。ガンマ様には他の人が持っていないものを持っているじゃあないですか?」
「ネットストーカーのこと?」
「バグ技です、バグ技!!」
顔を赤く染めながら詰め寄ってくる。
ジョークのつもりだったが、意外と気にしているようである。
彼女はコホンと
「アタシの調査によれば、最近落ち目の有名配信者がこのジムを利用しているそうなんですよね」
「一体どこから仕入れてくるんだそんな情報」
「企業秘密です。で、その人にバグ技の情報と引き換えにコラボをお願いできないかと」
「その配信者がバグ技を欲しがるとは限らないだろ?」
「そこは交渉次第でしょう。壁抜けなんかはかなり実践的な部類ですし、良い交渉材料になると思いますよ」
言って、赤髪は缶コーヒーを一口すすった。
「それで具体的に相手の特徴と名前は?」
「はい、この人です――あっ」
フィーが携帯端末をガンマに見せようとしたところで動きを止めた。
何者かが休憩室に入ってきたからだ。
「あの人です。配信者のシグマさん」
「あれが、か?」
見た目は完全に子供。
それも小学生なのかと思ってしまうほどの背の低さだ。
「あの子」
「お知り合いでしたか?」
「いや」と、首を振る。
だが、彼女には見覚えがある。
フィーが初めて押し掛けてきた時に通路ですれ違った少女に間違いない。
彼女もまた現場を見ているはずだが、その時は興味を持っていなかったのだろう。
「さっきからジロジロと何?」
雑念に気を取られているとちびっ子の方から声を掛けられた。
「あ、いや、その」
「何? 言いたいことがあるならはっきりと言いなさいな。ウジウジと気持ち悪い」
言い
最初の印象の通り、見た目とは違いかなり感情的な少女のようだ。
あまりな強気な態度にどう反応を返すべきか戸惑っていると、
「初めまして、アタシはフィー。この方はガンマと言います。プロゲーマーのシグマさんだと存じ上げておりますが」
「そうよ、だから何? シグマに用?」
何処までも
「もし宜しければ配信で共演して頂けないかと思っているのですが、いかがでしょう」
「断固拒否」
あっさりとぶった切られた。
「理由を聞かせて頂いても」
「見たところアンタ達、底辺の底辺といったところでしょ。そんな最下層民と時間を一緒に過ごすほどシグマは
「どうしても?」
「くどい!」
金髪幼女の怒声が休憩室に響き渡る。
「やらないって言ってるでしょ! しつこいのよ!」
シグマは両目を見開き、より怒りを
ガンマはというと、ここで彼女の瞳が綺麗な
「そうですか。では行きましょうかガンマ様」
「え、いいのか?」
「はい、ここまで拒否されてしまっては交渉どころではありません。それに――」
彼女は敢えて口元に手を当て
「こんな落ち目のプロ崩れなんかにガンマ様は
フィーが不敵な笑みを浮かべる。
明らかに特定の個人に対して喧嘩を売っていた。
「なん、ですって……!」
ちびっ子が
ここまで言われば誰だって同じ反応をするだろう。
(何でわざわざ怒らせるようなことを!)
「アンタ! 今なんて言った!」
シグマがフィーの首元を掴む。
「おや、良いんですかぁ? こんなところを他人に見られてSNSにでも上げられたら、炎上しちゃうんじゃあないですかぁ?」
「っ!?」
わざと見せつけるようにスマホをシグマの前に出すフィー。
金髪幼女は舌打ちと共に手を離した。
完全にフィーのペースだ。
相手が誰であろうと性格の悪さは変わらないようである。
「アンタ、一体何が望みなの? シグマに何か恨みでもあるわけ?」
「恨みなんてちっともありませんよ。アタシはアタシ達の野望のために、貴女とコラボしたいだけですよ」
(今しれっと『アタシ達』って言ったな、こいつ)
「アンタ達はシグマに何を提供出来る? それ次第よ」
「ダンストのバグ技情報。それも攻略に役立つものを」
再度ちびっ子の目が開く。
そして小さく口角を上げると、彼女は言葉を紡いだ。
「そうか、昨日のはアンタ達ってわけね。良いわ、アンタ達の要求を
「そうですか。ありがとうございます」
「ただし!」
シグマは勢いよく指をこちらに突き付け言う。
「アンタ達がアタシに勝てたらね!」
「望むところです!」
何故かフィーが正面切って答えていた。
「はぁ。はぁ!?」
一人置いて行かれたガンマの間抜けな声が
彼の配信者人生のレールは、完全に同行者の手によってねじ曲がっていた。
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