第3話・目指せ有名配信者

「ガンマ様のバグ技があれば有名配信者になれますよ!」


 周囲の都合など一切お構い無しに、フィーは叫んだ。

 一瞬、他の客や店員から注目を集めてしまったものの、彼女が慌てて頭を下げることでそれもすぐに霧散むさんした。


「自分で言うのもなんだが、バグ技って聞こえが悪いな」

「そうですか? アタシは分かりやすくて良いと思います。ですが呼び方が気に入らないようでしたら『グリッチ』と呼びましょうか?」

「うーん、まあいっか。意味はそこまであまり変わらないし」

「ではバグ技にしましょう。そちらの方がインパクトがあります」


 フィーが満足そうにカップに口を付ける。


 出会った時から感じることだが、ペースに乗せるのが上手い。

 綺麗きれいな顔をしていても中々にしたたかである。


「でもこんなことみんなやってるんじゃないの? 俺には全然大したことのようには思えないんだが」

「そんなことありません。アタシが調べた限りではダンジョン配信者の中ではガンマ様だけです」

「またまた」


 やはり信じられない。

 自分如きが見つけられた現象を世界中に散らばるユーザが分からないはずがない。


「納得出来ませんのならご自分の目で確認してみてください」


 と、スマホの画面を突きつけてきた。


 そこには『ダンスト グリッチ』のワードで検索されたページ。

 怪しいアフィリエイト用のサイトは出てきても、信頼出来そうなホームページは無さそうだった。


「無いな」

「でしょう? もちろんこれだけで信用して欲しいとは言いません」


 過去一番の真剣な眼差しをフィーが差し出してくる。


「ですが、ダンストは全世界でプレイされています。ここまで裏技やバグ技の類がネットに無いのはある程度信用に足り得るのではないでしょうか」


 ダンジョン&ストラテジー。

 通称ダンストはダンジョン踏破とうはを目的とした、現実と仮想世界を融合した複合現実ゲームである。


 一番の特徴は、従来のVRゲームには必須であったVRゴーグルを必要としないこと。

 特殊な粒子を室内に散布することによって、あたかも自身がゲームの中にいるような感覚を作り出しているのだ。


 更にダンストが他のゲームとは違う点がある。

 それは投影された世界を肌で味わうことが出来る点だ。

 創り出された壁に触れれば質感や温度まで味わうことが出来、敵モンスターを斬りつければ反動が返ってくる。


 その独自性によって、ダンストは登場から爆発的に流行っていった。

 個人の運動能力が何よりも物をいうこのゲームは、ゲームを主軸としたeスポーツではなく、純粋なスポーツとして広まったのだ。


 当初抱えていた特定の施設でなければ出来ないという欠点は最早無い。

 何せ今は美容室の数よりも多いぐらいだ。

 人口も野球やサッカーにも引けを取らない。


「そうだ、な」


 彼女の強い説得力に同意する。

 だが、彼女の言い分全てに納得したわけではない。


「しかしいくら便利な技があっても、それだけでトップ層に通用するわけ無いだろう?」

「勘違いなさらないでください。有名配信者は別に強くなる必要なんてないんです」


 彼女は残っていたカップの中身を一気に飲み干し、力強くカップをソーサーの上に置いた。


「面白さがあれば強くならなくても良いんですよ。特定分野の専門家じゃなくとも、リスナーを楽しませることが出来さえすれば」


 確かに彼女の言う通りである。

 ガンマがよく試聴しているダンスト関連の動画も別にプロ選手ではない。

 だが、視るものをきつける面白さがあった。


「逆に難しくないか? トークとかまるで自信無いし」

「そこは1年間配信やられてたので、多少コツを意識してけば問題ないかと」

「というと?」

「リアクションを大きくするとか、分かりやすい説明を心がけるとかですね」

「うーん、大変そうだな」


 あごに指を当て考える。

 難しそうだが、出来ないと断言するほどのことでもない。


 しかし妙に違和感がある。

 心無しか誘導ゆうどうされているような気配がこの場にあった。


(んんっ!?)


「てか、何で配信者続ける前提になってんのっ!? まだやるとは言ってないよ!」

「あれ、そうでしたっけ? まあそんな細かいことはお気になさらず」

「気にするし、細かくないわ! 君さあ、押しが強いってよく言われない?」

「たまに言われますね。年に12回ぐらいでしょうか」

「月1っ! 全然言われてるからそれ!」

「それだけアタシの交渉力が高いということですね」


 自信満々にフィーが言う。

 その表情はあまりにも自信に溢れていた。


(配信で話している時はこんな風じゃなかったのに)


 現実のフィーと話していると、頭を抱えたくなるようなタイミングが多い。

 ここまで我が強いと学校社会で溶け込むのに難儀なんぎしそうである。


「何となく君がいじめられてた理由が分かった気がするよ」

「? 何はともあれ明日から二人三脚で頑張りましょう!」

「は!? 二人三脚って何」

「え、文字通りアタシとガンマ様で配信頑張るってことですが?」


 何を今更と言わんばかりに返してくる。

 いつの間にか自然と他人のふところに入ってくる少女の強引さには恐ろしさを感じた。


「目指せ有名配信者ー!」


 フィーが天高く右手を掲げ宣言する。


「人の話を聞けー! 勝手に決めるんじゃない!」

「安心してください。アタシが付いてますから」

「お前のせいで不安になっとるんじゃい!」


 結局この日は終始彼女のペースで幕を下りた。


 フィーはもう少し話そうと粘ってきたものの、ガンマが無理やりタクシーにぶち込むことで面倒なことにはならずに済んでいる。


 結局何時ものように一人帰路につくガンマ。

 ジムに通う前はなまりのように重かった頭が軽くなっていることに、ガンマは少しも気付かなかった。


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