第6話
「アンヌ。あのお嬢さんとずいぶん仲良くなったのね。アランさんのことまで話すなんて。」
アランは早くに亡くなってしまったので、クロエも面識はない。アンヌが彼のことを話すのは、クロエの両親など、古い友人に限られていた。出会ったばかりの旅行者に話をしたと聞いて、少し驚いたのだ。
「どことなく、アランに似ていたからね。」
「彼女が?」
「温かい感じのするところがね。」
クロエにはよく分からないが、アンヌは時々こういう表現をする。それは大抵、性格のいい人を差していた。そして実際、アンヌの感覚は当たるのである。
「アンヌはそういうとこ、よく分かるわよね。」
「この年になるとね、何となく分かるようになるのよ。」
そう言って微笑みながら、アンヌは通りを眺めた。街路樹は少し高くなったけれど、通りの風景はあの頃とあまり変わらない。今は青々と茂る木の葉も、秋になればまたあの時のように色づくだろう。
『彼はいい人だよ』
まだ彼のことをよく知らなかった頃、そう教えてくれたのは、他の人には見えない友人たちだった。子供の頃は、暖炉の前で、祖母や妹と一緒に、眠くなるまでおしゃべりをしたものだ。祖母も両親も亡くなって一人になってからも、夕飯の後は電気を消してロウソクの火で過ごすのがアンヌの日課だった。ロウソクや暖炉に火が点っていれば、彼らは遊びに来てくれる。
人が温かく見えたり冷たく見えたりすることは子供の頃からあったけれど、それが人間性を示しているのだということは、しばらく経ってから気づいた。
アランが温もりのある光を纏っていることは分かっていたけれど、戦争のときも終わった直後も色々あったから、自分の感覚だけでは心もとなかった。
『アンヌは彼が好き?彼はいい人だよ。』
『彼はアンヌのこと、大好きだね。』
彼らははっきりそう言った。妖精は人間の嘘が分かる。誤魔化しも建前も通用しない。だから、自分が彼に対して抱いた印象は、間違いない。アランのプロポーズを迷わず受けたのは、そうした理由もあった。
車窓を流れていく景色は、日常のものから、懐かしいものへと変わりつつある。この街には長く住んで思い出も多いけれど、古い知り合いはだんだん少なくなってきた。以前住んでいたアパルトマンには、もう知り合いはいない。同じアパルトマンにいた友人夫婦は、結婚前からの知り合いで、家族のように親しくしていたけれど、数年前に二人とも亡くなってしまった。アランとも暮らした思い出深い場所ではあるけれど、階段を上り下りするのが厳しくなってきていたというのもあり、夫妻の娘のクロエの勧めで、彼女の家に居候するようになった。新しい街にも慣れて知り合いもできたけれど、あの日々はますます遠くなった。
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