第25話
六か国同時革命の際、無量寿の剣士の多くがカブトワリの刀を武器に戦った。この物質で作られた刀は鉄の塊をも難なく切り裂く。しかし最も恐ろしいのは、空を切るといともたやすく強烈な旋風を巻き起こし、それによって生じる真空と極端な気圧の差によって周囲の物体を切り裂くことである。
普通ならそんな武器は使う者にとっても危険である。が、ありがたい点があるとしたら、いくらむやみに振り回しても、手にしている当人は自分が作ったカマイタチをくらうことはないという特性だ。ただそれでもこんな武器はとても人間の手に負えるものではない。敵を殺せる以前に味方を大勢巻きこんでしまう。訓練すればいつかは使いこなせるようになるかもしれないが、そのいつかの間に人間なら老人になってしまう。しかし無量寿ならば敵のみを殺すよう使いこなせるだけの鍛錬もできるのである。
戦争が本格的に始まる前、
『お前一人がカブトワリを手にひとたび見せつけてやれば、それで終わる』
しかしゲンザはその命に従わなかった。そのために城から追放され軍人でもなくなった。
ゲンザ一人が従わずとも命令は実行され、剣士たちはカブトワリを手におびただしい数の人間を薙いでいった。
只人となったゲンザはそうしたつとめをせずに済んだが、その後の戦争で次第に無量寿側が劣勢となる中で、戦う力のある無量寿は例外なく戦いの場へ向かうことになった。
最終的に剣士たちは自ら殺した人間の数だけ、人間側からむごい報復を受けることになった。ゲンザと
剣士が残した武器はそのまま人間の手に渡っていったのだが、やはり使いこなせるものではなく、無理に使おうとして無駄に犠牲者を出した。
そこで人間側の勝利の象徴として使うことも考えられたが、素人は鞘から出そうとしただけで惨事となる。見世物にすらならないとあって倉庫の奥に押しこめられた。
それが流出し、闇で回った。
剣士たちの遺族や生き残った仲間たちは、散逸した刀剣をあらゆる手を尽くして探している。剣士たちの中には行方不明の者もいる。刀の辿ったルートから何かの手がかりが見つかる可能性もある。
カブトワリが見つかった場合、無量寿たちは必ずそれを帯刀警察に届ける。彼らは陰で警察の情報網を活用しながら、この物質から誰かの痕跡を摑み取るのである。
今回カブトワリが見つかったのは、実に数十年ぶりのことであった。解明はただでさえ途方もない作業であるが、歳月の経過がそれをより複雑なものにさせるに違いない。ただカブトワリには千差万別の刃文がある。そこから年代ぐらいは特定できる。
紗白もまた息子の時夫を探している。彼もまたカブトワリの刀を持っていた。
捜索者であるということは、途方もない苦役である。今さら見つかったカブトワリに何か手がかりが残っているとは思えない。今回の発見は苦役をさらにつらくするだけのものだろう。ゲンザにはそうとしか思えない。
だからゲンザは、涙の谷で
(倶李……、あいつがあの短刀に触れれば、何か分かるのか?)
そういうことも考えたが、実行する気にはなれなかった。存命の無量寿の中ですら、倶李の力を目の当たりにした者はいない。それで判明した事実が望まないものであった場合、誰も受け入れようがないというものだ。まだしも科学的事実の方が受け入れやすい。
帯刀警察の方でなんらかの手がかりが判明した場合、そのことはその見つかった手がかりの関係者にのみ知らされる。要するに、ゲンザと雲雀さえ黙っていれば、恐らく紗白は今回新たにカブトワリが見つかったことも、そこから何も見つからなかったことも知らずに済むのだ。
その一方で、このカブトワリをトードルに返すことについてはさらさら考えてはいなかった。仮にトードルが返してくれと言ってきても白を切るつもりでさえいた。
(あいつめ、もう少しオルゲルに対して何か言うことを言っていればな。まあそれに関しては俺もあいつのことは言えない)
あの時、あの谷でオルゲルは死んだと思って彼女自身についてそれ以上のことは考えなかった。オルゲルの家族のことも頭になかった。ただただ、この惨事が無量寿にもたらす悪影響についてのみ思いを巡らせていた。
あの場にいた無量寿はほぼ全員がそうだった。
ただ二人、ミヤコと竹子を除いては。
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