人影の慰労会

@ajisai_24

 影と鬼ごっこ。

 今日も月が昇る。あいつは今日も笑ってる。校庭の真ん中で立ち、うすら笑いを浮かべる。

「鬼ごっこしようぜ」

 少年Aは小学6年生になったばかり、この世界を知らないひよっ子だ。

「さいしょは、ぐー。じゃんけん、ぽん!」

 少年Aが鬼ごっこを開始したのは夜の8時頃。

「よっしゃ!捕まえてやる」

 俺はずっと隠れている。きっとあいつは俺を見つけられない。

「いた!・・・タッチ!次はお前が鬼だ!」

 捕まらない。捕まらない。

「来るなよ!あっちいけって、ハハッ!」

 きっと平気だ。今は夜だから、周りには街灯なんてない。家の明かりも車のヘッドライトすら当たらない。僕は隠れている。

「クソー、捕まった。悔しいなー」

 まだ当分は捕まらないだろう。でも、捕まったら俺は鬼にされる。それは絶対に嫌だ。鬼ごっこ早く終わらないかなー。

「ねぇ、どこだよ。暗くて分からないや」

 少年Aは校庭の真ん中でキョロキョロと辺りを見回す。

 気づかれるな俺。息を殺せ。見つかるな。鬼にされるな。

 ん?足音が近づいてくる。えっ?バレた?いや、平気なはず何もミスはしていない。気づかれるはずは・・・。

「ネェ、見つけたよ。影さん達。オツカレサマ」

 茂み隠れていた俺はあっさり捕まってしまった。鬼であった少年Aの顔はまさに鬼だった。目は形すら保っていない、目尻からタラーと血が流れ、頬から切れた口、その中は空洞であった。少年Aは俺を捕まえた途端に顔が元に戻りあどけない少年の顔になった。

 少年Aに俺は捕まった。次は俺が鬼だ。鬼だ。鬼だ。

 まずは、誰が次に鬼をやるかを決めなきゃ。

「鬼っごっこしようぜ」

 よし、何人か集まったな。時間は夜8時。

「さいしょは、ぐー。じゃんけん、ぽん!」

 あぁー次はあいつを鬼にしなきゃいけないんだ。捕まえられるかな。

「よっしゃ捕まえてやる」

 隠れている場所は知っている。初めは演技だ。俺は見えない影と本気の鬼ごっこをする。制限時間は3分。3分以内に捕まえなければいけない。

 俺は必死に影を追いかける。影は体も表情も存在しない。つまり、の鬼ごっこ。

「いた!・・・タッチ!次はお前が鬼だ!」

 逃げなきゃ。逃げなきゃ。捕まったら・・・・殺される。

「来るなよ!あっちいけって、ハハッ!」

 逃げなきゃ。逃げなきゃ。捕まったら・・・・俺に明日が来ない。

「クソー、捕まった。悔しいなー」

 ダメだった。じゃぁ、あいつを鬼にしなきゃ。

 鬼になった瞬間に俺の顔は変形していた。それもまた、にすぎなかった。

「ネェ、見つけたよ。影さん達。オツカレサマ」

 そうして俺は鬼ごっこを終わらせた。


 その翌日、校庭で20人の子供の死体が発見された。しかし、ニュースでは大々的に報じられることはなかった。それでも事件を知る人の中から真相を追う人がいたため、一部のメディアで放送された。それも、わずか5分だけ。

「死体から刺し傷や絞殺などの他殺を裏付ける証拠は見つかっておりません。ただ、死体の鑑定結果では死体全てに共通して、肉はほぼ削ぎ落ち、非常に痩せ型であること。このことから死ぬ直前まで栄養を一切摂っていなかったと考えられます。加えて、エネルギーの消費量もこの痩せ型では到底考えられないほど筋肉を酷使しエネルギーを消費していたと研究者が述べています。また、見つかった死体の20人のうちの15人は死因が不明であるとされ詳しい捜査を行っています。残る5名の死体からは内臓が一切見つからずまるで空洞であったと警察の調べで分かっています。死亡推定時刻は発見当時から8時間前であることが確認されました。つまり、発見時刻は5月11日午前7時ごろから8時間前ですので5月10日の11時頃であると推定されます。近隣の住人の話から校庭から異臭がすると通報があり、調べると校庭の中央の土に中から大量の麻薬と原因不明の人型の影跡が見つかりました。警察は集団自殺の線で調査を進めているとのことです。以上、ニュースを終わります」


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