§7

(覚悟は良いな、ランスロットよ)

(いつでもどうぞ。その代わり、チャンスは一度しか無い筈。外さないでくださいね)

 短くやり取りをした後、ガイアの念がランスロットを包み、彼の魂は肉体を離れて行った。

(出来るだけ、傷付かなきゃいいんだけどね……ま、それはお祖父様次第、ってところか!)

 スゥッと泳ぐように、ランスロットは巨人へと近付いて行った。精神体だけとなった彼の接近を、巨人は探知できないようだ。その証拠に、光線砲も撃って来ない。精神の糸がグングン伸びた。都合、100メートルは離れただろうか。これだけ離れれば、爆風の直撃や破片による肉体の損傷も、最小限で済むだろう。寧ろ、吹き飛ばされた方が損傷が少なくて済むかも知れないな……等と考えながら、彼は巨人の背後にピタリと貼り付いた。

(お祖父様! 始めます、狙いを外さないでくださいね!)

(……死ぬでないぞ、ランスロット!!)

 刹那、巨人の体は金色の輝きに包まれた。そして、ガイア渾身の神の雷『トールハンマー』が無防備となった巨人を直撃した! 巨人は爆散し、発信装置も塵と消えた。


**********


「あの輝き……二度目だが?」

(……そなたが、ジークフリードか?)

「だ、誰だ!?」

(我が名はガイア。ランスロットの、最後の言葉を預かっておる。そなたに、必ず伝えて欲しい……そう頼まれてな)

「奴の……最後の言葉、だと?」

 ジークフリードは、ガイアと名乗る神からの伝言を、余す事無く聞いた。そして彼は涙した。ランスロットの悲壮なる決意、エトワールを裏切る事になった悔しさ……それらを全て理解して。

「ランスロットよ……何故、貴様が逝かねばならなかった!? こうなるべきは……命を投げ出してウーノを救うべきは、本当なら俺が担う役割だった筈なのに!! 俺は……俺は、貴様にどう詫びればいいのだ!! 教えろ、ランスロット!!」

 その雄叫びが、今のランスロットに届く筈は無い……それは分かっていた。だが、彼は叫ばずには居られなかった。いや……幾ら叫んでもどうにもならないだろう。しかし、そうしないと彼の心は張り裂けてしまいそうなほど、悲痛な思いで満たされていたのだった。


**********


「何処だ……何処へ行った、ランスロット!!」

 ジークフリードは爆散した巨人の残骸の中を、一人の少年の身体を探して飛び回っていた。そう遠くへは行っていない……必ず近くを漂っていると信じて。

(ジークフリードよ。そなたの友を想う気持ち……しかと我が心に届いた。その涙、いつまでも忘れるでないぞ。ランスロットの身体は此処にある。エトワールの元へ連れ帰ってやるが良い。そして……儂からそなたに、頼みがある)

「神が、俺に頼み……だと?」

 ガイアの紡いだ意外な言葉に怪訝そうな表情を浮かべ、ジークフリードは自らの腕に目を落とし、更に頬に手を当ててみて、驚愕した。なんと、全身を覆っていた筈の鱗が消えて、元通りの姿に戻っていたのだ。

(今から伝える一言は、相当な衝撃を……そなたとエトワールに与える事になるであろう。その代価としては、些か安いものであるが……あの醜悪な鱗と肌を取り除き、元の姿に戻しておいた。その背にある翼は、地上へ帰るための仮の物じゃ)

 その言葉を聞いた後、彼は遥か彼方の空間上に、柔らかな光を放つ浮遊物を見付けた。もしやと思って近付いてみると、それはランスロットであった。但し喋らず、目も開けず。ただ横たわるだけの『抜け殻』であったが。しかし血の気は失っておらず、脈もあった。つまり、心だけが砕け散り、失われているのだ。

(見ての通り、今の彼は心を失った抜け殻じゃ。彼の心は、巨人と共に四散した。しかし、全ての欠片はウーノに帰っている筈じゃ。ただ、各地に点在してはいるが……)

「じゃあ、頼みってのは……コイツの心を拾い集めるって事か?」

(左様。そして、それが出来るのは……彼を心から愛する、エトワール嬢だけなのじゃ。それを、彼女に頼んで欲しいのじゃ)

 自分の蒔いた種とは言え、辛い役を負う事になったな……と、ジークフリードはランスロットの身体をしっかりと抱き止めながら雲の上を漂っていた。いつの間にやら、大気圏の直ぐ上まで戻っていたらしい。

「エトワールの涙を……見ない訳にはいかんな。神といえども完璧ではない、という事か」

 侵略者の脅威は去った。しかし自分にはまだ、地上にやり残した事が山ほどある。そう考えながら、彼はゆっくりと翼をはためかせて、妹たちの待つ地上へと降りて行くのだった。

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