§4

「さっきの光、もしかして……いや、間違いないな」

 閃光を射目の当たりにして、ランスロットは呟いた。この宙域で斯様な光と衝撃を発する要因は、一つしかない……つまり、あの巨人に対して、何者かが攻撃を試みた、という事である。尤も、この状況で攻勢に出られる存在が数えるほどしか居ない事は理解できる為、誰の手によるものかは凡そ見当が付いていたのだが。

「……おっと!」

 突如、赤い光線がランスロットの脇を掠めた。成る程、これがあの巨人の持つ光線兵器かと彼は理解した。が、それは同時に、彼が敵に捕捉され、その射程圏内に突入している事を意味していた。

「もう、後戻りはできない、か。まぁ元々、するつもりも無いけどね!」

 見付かったなら、コソコソ隠れながら進む必要は無い。全速力で相手に接近し、間近で観察して弱点を探すしかない……そう考えて、ランスロットは一気に加速した。彼の飛んだ後には、光の粒子が航跡となって残った。それは神々しく美しい、まさに神の子の通り道であった。

「ひょ! ……流石に狙いが正確だなぁ。それだけに、予測しやすいから避けるのも簡単だけど」

 ジークフリードの言によると、装備されている光線砲は強力だが、連射が出来ないという欠点があるらしい。つまり、エネルギー充填の都合から、一射目が行われた後に若干だがタイムラグが発生する。その隙に高低差を付けておけば次弾回避も容易、という訳だ。更に、その光線を辿って行けば目標に辿り着く事になるので、もう迷子になる心配も無い。

「しかし……相手の攻撃を喰らう事は無いけど、こっちには攻撃の手段すら無いからなぁ。拳骨で殴って凹むような物でもあるまいに。さて、どうしよう?」

 ジークフリードに急所の位置やセンサーの場所などは教えて貰ったが、分解しようにもネジ穴は無いし、攻撃用の武装も無い。まさに護衛の無い王将に対し、成れない歩で立ち向かうようなものである。歩だけを持ち駒として大量に持っていても、成る事が出来なければ詰める事は出来ない。二歩が禁じ手である以上、幾ら攻撃しても食われるか避けられるかのどちらかで終わってしまうのだ。それを打破するには、歩以外の駒に救援を求めるしかない。が、今の彼は単騎で王将に向かう歩兵に等しい。

「せめて、コイツが役に立てばなぁ……」

 胸のホルスターに仕舞われ、空しく黒光りを放つ拳銃をふと見やる。薬莢内に炸薬と酸素が詰まっている為、銃弾を撃ち出す事は出来る。しかし、ジークフリードの説明によれば地上用と違って装甲の薄い部分……弱点は無いとの事。流石に単体で外敵からの集中砲火に耐えられるよう設計してあるだけの事はある。

「待てよ? 光線砲の発射口から銃弾を撃ち込めば?」

 幾ら強固な装甲を持つ要塞とは言え、砲口だけは穴が開いている筈。そこをピンポイントで狙えれば……と、ランスロットは考えたのである。

「狙いがタイトになるから、当てるのは至難の業だけど……試してみる価値はあるな」

 そう決めた彼は、通常弾とマグナム弾の混成になっていたシリンダーの中身を全弾マグナム弾に取り替え、既に発射パターンすら暗記してしまった光線砲の砲口に向かって突進していった。

「一かバチか……こっちにはこれしか手が無いんだ、成功してくれ……よっ、と!!」

 自分めがけて飛んでくる光の矢を紙一重で回避し、それを数回繰り返して完全に攻撃パターンを頭に入れた。そして目標が視認できる距離にまで一気に接近し、彼は巨人の胴体に取り付いた。流石に自らの体に貼り付かれ、ゼロ距離となれば、光線砲も撃つ事が出来ない。巨人は即座にマニピュレーターによる排除を開始したが、その可動範囲は意外と狭く、我が身に取り付いた異物の排除をするには少々厳しいらしい。

「ふぅん、ピッタリくっつかれるのは苦手、って訳なんだね……じゃ、遠慮なく!!」

 銃口を光線砲の発射口に重ね、トリガーを引いた。銃弾は真っ直ぐに砲口の内部へと突進していった。決まってくれ……と、ランスロットは祈っていた。だが、思いがけないハプニングが彼を襲った。そう、発砲時の反動によって彼の身体は銃の発射角の正反対に向かって飛び出してしまったのだ。

 ランスロットの放った銃弾は、光線砲の一門を破壊する事には成功した。しかし、砲身とその基部を構成するユニットを切り離す事で、本体は無傷。どうやら、砲口内を狙われる事もゼロ距離射撃も、想定の範囲内であったらしい。

 そして宙に舞い、無防備な姿勢を敵の目前で晒す事になったランスロットは……

「……しまった!!」

 気付いた時にはもう遅かった。別の砲門が彼を照準し、至近距離から光線砲を浴びせた!

「甘かった、か……」

 辛うじて直撃は避けたが、掠められた左腕は酷い火傷となり、暫く使い物になりそうになかった。兎に角、拳銃による攻撃も無意味……と云うかリスクが大きい事を知った彼は、諦めて銃をホルスターに仕舞い、改めて巨人と対峙するのであった。

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