§3

 その頃、エレクティオンでは何とかランスロットの援護が出来ないか、それを審議していた。

「遠隔操作は……受け付けませんね。妨害装置があるのか、それとも既に回路自体が切断されているのか」

 オネイロスが、様々な種類の信号波を目標に送っても通用しない事に絶望した。つまり、目標が唯一受信する信号は、ジークフリードの脳波パルスのみという事になる。しかし、それを受信すれば、程なくウーノはロボット兵の大群による無差別攻撃に曝されてしまうのだ。

「故意にその後続部隊を呼び寄せ、逐一撃破する策は如何でしょう?」

「……何千、何万と押し寄せる敵と渡り合え、と? それこそ聖戦に等しい大戦乱になってしまうぞ」

 オーケアノスの案も却下された。それに、後続の巨人たちは映像で見た物より強力になっている筈。それを万一撃ち漏らして地上に降ろしてしまえば、蟲などとは比にならない脅威となる。加えて、あの巨人は蟲化の原因そのもの。破壊に成功しても、その後の惨状は目に見えている。

「となると、やはり大群が到達する前に発信源を叩く以外に方法は無いという事になるな」

 ユラリ、とガイアが腰を上げた。目標が位置するのはウーノの遥か上空、太陽との中間点。神の雷を直撃させても、ウーノや太陽までは被害は及ばぬ筈。そう算用したガイアは、自らの力を以て目標を消滅せしめようと立ち上がったのだ。

「可愛い孫を、むざむざ危険に晒してなるものか……見ておれ悪魔め!」

 そう言い残し、ガイアは時空門を開いて目標の直上まで接近した。そして、気合い一閃。渾身の力を込めた念波を巨人の頭上に叩き付けた。その閃光は、目標に向けて飛行中のランスロットには勿論、ジークフリードにも見えたという。だが……

「……な、何と!?」

 閃光が消え、衝撃波も収まったその時……ガイアは信じられない物を見た。何と、目標は何事も無かったかのようにその場にあり続けたのだ。

「我が雷が、通じぬと申すか……」

「ガイア様! 宙域に留まり続ける事は危険です、その巨人以外にも外敵は居るのです! お引きを!!」

 呆然自失。ガイアはよもや、星をも消し去る神の雷を弾き返す相手が存在するなど、今まで想像した事が無かったのだ。そして最大の力を以てしても倒せぬ巨人の謎を解明する為、エレクティオンへと引き返した。

「あの巨人の周囲をくまなく調べるのだ、何か防護膜のような物がある筈! たかが鋼鉄の塊なぞ、あの雷で消滅せぬ筈が無い」

 最大の力を弾き返された直後とは言え、流石は神の長。ガイアは冷静さを欠いてはいなかった。そして何とか突破口を……と、オネイロスたちは巨人の周囲や内部構造を徹底的に分析した。すると、意外な事が判明した。

「あの巨人が、体内に蟲化の細菌……ナノマシン、と申しましたか。その生きた機械の粒子を無数に抱えている事は、先の戦闘とあのノーヴェの男性の言い分で判明しましたが……どうやらそれを体外に放出し、身を覆っているようなのです」

「それが、いかがしたと申すか?」

「以前、クレイオスが申しておりました通り、ノア様とランスロット殿の血液以外に、その機能を無効化する手段は無いというのが現在までの見解。とすれば、ガイア様の攻撃もそのナノマシンが構成する被膜には通用しないのも道理かと」

「……!!」

 何と……と、オネイロスが弾き出したその見解に、ガイアは愕然とした。確かにその推論が正しければ、自分の攻撃が弾かれるのも分かる。しかし、それでは解決法……あの巨人を倒す手段は、ランスロットの血液以外に無いという事になる。

「プレイアデスをこれへ! 過去にウーノで蟲化を抑止した実績がある筈、彼女たちに被膜を除去させて……」

「無理です、ガイア様! プレイアデスの祈りは『大気を清浄にする』効果を持ってはいますが、それは有害物質を消去する事ではないのです。大気中の無害な細菌で有害物質を包み込み、その害が発揮出来ないようにするというのがその効果の実情。即ち、大気の無い宇宙空間では彼女たちは無力なのです」

「何と……八方塞がり、か!」

 どの案も決定打にはならず、エレクティオンでは首脳陣が揃って頭を抱える事になった。そしてその頃、ランスロットは……間もなく見えて来るであろう巨人めがけてまっしぐらに飛んでいた。

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