第八章 空の彼方の死闘

§1

「ランスロット……敵の大将を味方に付け、共闘するに至る手際は見事だ。しかし! そなたが最終兵器の破壊まで担う必要が何処にある! 誘導装置を積んだ巨人を制御し、太陽に向かわせれば巨人と共に誘導装置も燃え尽き、消滅するではないか!」

 ジークフリードの背に乗り、成層圏を脱出するランスロットを映像で見ながら、ガイアは憤慨していた。傍に立つオネイロスも、オーケアノスも、そしてノアも……固唾を呑んでその姿を見守っていた。

「いや……地上で無力化した巨人たちと同様に、制御不能となっている可能性が高い。あの異形の者も、斯様な展開となる事は予想外だったのであろう。でなければ、ランスロットとの共闘などは望まぬ筈だ」

「しかし、解せません。そこまで周到にウーノを攻める準備を整えていたなら、何故最初から、後続の部隊と合流してから一気に攻め込まなかったのでしょうか?」

「……エトワールさんの事が、あったからではないでしょうか」

 オネイロスとオーケアノスの会話に、ノアが割り込んだ。そう、あのように強大な武力を持っているなら、最高のタイミングを待ってから一気に攻め入るのが常套。しかし、彼――ジークフリードはそれをしなかった。彼はまず最小限の戦力で威嚇を行い、降伏を勧告して、人類に選択肢を与えた。しかも、事前に単身で街に潜伏し、影からエトワールの事を見守っていたのだ。破壊と侵略を第一目的とするならば、そのような無駄は省いて最初から攻勢に出る筈。増して相手は数段文明レベルが劣るウーノ、わざわざ偵察して策を練らずとも容易に制圧は可能であったろう。なのに、彼はそれを行わなかったのだ。

「彼にも、情けはあった……という事でしょうか?」

「と云うより、彼は単なる報復ではなく、謝罪を求めていたのではないかと思えるのです」

「……謝罪?」

「彼は言っていました、我が身をこのように変えた人類は許し難い、と。しかし、被害者が加害者に対して報復を行ったとて、一時的に爽快感を与えるだけで、後に激しい空しさが残るもの。それが真の解決になるとは思えないのです」

 それはいかにも、平和を願う女神らしい発言であった。そして、その言葉を聞いたオネイロスは……いや、オーケアノスも、ガイアすらも……身に覚えがあるのか、言葉を失い、俯いてしまった。

「……怒りに身を任せ、相手を叩く事を考えるのは初歩の段階です。一歩踏み込めば、相手の気持ちを理解して、分かり合おうという考えに至るのではないでしょうか……増して、彼の場合は原因から千年が経過している訳ですし」

「その為に、話し合いの余地を設けようとしたと……そう仰るか?」

「そうでなければ、ウーノは既に全土が廃墟となっている筈です」

 確かに……と、オネイロス達は頷き合った。そうでなければ、あの巨人たちが暴走するまでの間、民を威嚇するだけに留める訳が無い。それに、ナノマシンのみを先行させて蟲化による汚染で人類を苦しめた時点で、既に彼の復讐は終わっていたとも考えられる。後発の軍勢を導いたのは、ウーノが軍備を整え、星間戦争を起こせるだけの攻撃力を持っていた場合の保険だった……ノアにはそう思えたのだ。何しろ、彼にはウーノがどのような星であるかは分からなかったのだから。その彼の唯一の誤算は、ナノマシンが独自進化し、自らの制御を離れた事であろう。

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