§7

「はあぁ!? 宇宙に行くだと!?」

 ウィルは、アッサリとそう言い切ったランスロットに、本気で呆れた……と云う感じの表情を向けていた。

「お前なぁ、近所のタバコ屋に買い物に行くのと訳が違うんだぞ? 空の上だぞ、空気も無いんだぞ!?」

「分かってるよ、ウィル。でも彼の力を借りれば、造作も無い事なんだ。それに僕自身も、半分は神。宇宙でも大丈夫なんだよ」

 そしてランスロットは、ウーノの衛星軌道上に誘導装置があり、それを目指して先程の巨人たちが大量に押し寄せて来るので、その誘導装置を破壊する必要があるという事を説明した。

「ただね、問題が一つあってさ。その誘導装置を、さっきの巨人の親玉が守護しているそうなんだ。先ず、そいつを倒さなければならないんだけど。ま、彼も協力してくれるし、何とかなると思うんだ」

「ランス、お前……ちょっと来い!」

「い、痛いよウィル! 乱暴しないでよ」

 ウィルはエトワールの目が届かない位置まで離れると、凄みを効かせてランスロットを睨み付けた。

「お前まさか、死ぬ気じゃないだろうな?」

「そのつもりは無い。けど、命懸けになるのは確かだと思う」

「お前が出張る必要が何処にある! あのトカゲ野郎にやらせりゃいいだろうが!」

「それは、そうなんだけど……あの巨人たちはもう、制御不能の暴走状態になっているからね。彼が参戦したとしても、大した意味を成さないんだよ。それに、巨人たちを動かしているのは、蟲化の原因となっている、あのナノマシンだそうだからね。蟲の毒を浄化できる僕の方が、勝てる可能性が高いと思うんだよ」

 何てこった……とウィルは嘆いた。どうしてお前はいつも、損な役ばかりなんだよ、と。だが、ランスロットはそれを制し、キッパリと語った。

「心配しないで、ウィル。僕は死なない、だって死にたくないから。生きる望みを、希望を、護りたい人を……見付けたから。彼女の為にも、僕は帰って来る。絶対にだ」

「……本当だな? ウソ吐きやがったら、地獄の果てまで追いかけてでも連れ戻すからな!?」

 その台詞に対する回答を、ランスロットは無言の笑顔で表現した。僕は死なない、絶対に帰って来る……と。

 そして彼は、黙ってウィルに背を向けると、ゆっくりとエトワールに近付いて行った。

「エト、少しだけ心配掛けちゃうけど。ちょっとした冒険旅行に行って来るだけだから、心配しないで」

「……無茶を言うな……心配しない訳が無いだろう? 素直に『行って来い』と言える訳が無いだろう!?」

「大丈夫。僕は君に黙って、何処かに行ったりはしない。君が好きだから。いつまでも、傍に居たいから」

 そう言って、ランスロットは首に巻いていた絹のマフラーをほどき、それでエトワールの長い髪を後ろで纏め、リボンのように飾り付けた。

「留守にしている間、それを僕だと思って大事にしておいて欲しい……そうだ、帰って来たら、国を出よう。そして二人で旅をしよう。あての無い、いつまでも続く旅をね」

「……約束だぞ? 必ず、二人で旅をするんだぞ?」

「このマフラーに誓って、約束する。じゃあ、留守を頼んだよ」

 そう言って、ランスロットはエトワールの頬に口付けをした。必ず帰る、きっと戻る……そう誓いながら。

「挨拶は、済んだか?」

「はい」

「しかし……実の兄の前で妹を口説いて、キスまでするとは。顔に似合わず大胆不敵な奴だな、貴様」

「この星を蟲で汚してくれた事への、お返しですよ。妹さんは僕が頂戴します」

「ぬかせ! ……しっかり掴まっていろ、吹き飛ばされても気付かんからな!」

 刹那、ランスロットを背に乗せたジークフリードは、真っ直ぐに空高く舞い上がって行った。ウィル、エトワール、残された騎士団たち……彼らは万感の思いで、飛び立って行く彼らを見守っていた……

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