§6

「ウィル、エト! 皆を可能な限りあの巨人たちから遠ざけるよう誘導して! 僕は彼に事情を聞いてくる!」

 そう叫び、ランスロットは再び空高く飛び上がって行った。そして背後からパンチを受ける寸前だったジークを突き飛ばして救い、五体目の巨人を先と同様の要領で停止させた。暴走状態にあっても、弱点は変わらないらしい。

「ジーク様、これはどういう事ですか!」

「わ、分からぬ! あれらを内部で制御しているナノマシンは、俺の指示に従うようプログラムされた人工生命体なのだ。それが数を成し、演算装置となってあの巨体を制御している。いわば生きた機械なのだ。それなのに……」

「生きている……? なら、それらが知識を持てば、独自に進化する事も考えられるのでは?」

「……!!」

 ランスロットの指摘は的を射ていたようだ。そう、ナノマシンは生きている……単に命令を聞くだけの機械と違い、外部からの影響を受けて経験値を積む事が出来る生命体なのだ。それらが独自に進化し、意志を持ったとしても不思議ではない。

「そうか、長い年月を経る間に、奴らは独自に進化して……しかし、此処にある10体は初期型、500年前に完成した物だ。そして俺と共に宇宙へ進出し、ガイドビーコンを辿ってここウーノに辿り着いた。それが何故?」

「待って下さい、初期型と仰いましたね? では、後発の発展型もあるという事に?」

「如何にも。しかし、それらは自動制御の工場で生産され、完成した順にビーコン波を辿って順次追い付いて来る手筈になっていた。それらもナノマシンで制御してあるので、製造の時点でアップデートされるなら話は分かるのだが……」

「初期型に内蔵されていたナノマシンも、内部で進化していたとは考えられませんか?」

「……!!」

 迂闊だった……と、ジークフリードは自ら開発したナノマシンが、自分の発想を追い越してしまった事実に愕然とした。が、呆けていても始まらない。兎に角、暴れている巨人たちを何とかしなくてはならないのだ。

「小僧、真上だ! 頭頂部が一番装甲が薄く、通常弾を撃ち込むだけでも内部構造に達し、機能を破壊できる!」

「ジーク様、有難うございます!」

 否応なしに、共同戦線を張らざるを得なくなった二人は協力して巨人たちの撃破に掛かった。と言っても、暴走した巨人に対し有効な兵装を持たないジークフリードは、弱点を指示するだけであったが。しかし、弱点を暴露された巨人たちは既にランスロットの敵ではなく、瞬く間に撃破されて行った。そして最後の一体が王宮の壁を破壊しに掛かった時……がら空きとなった背中の制御装置を直撃され、その動きを止めた。

「助かった……のか?」

「でも! あの悪魔はまだあそこに居るぞ!」

「神の子と一緒だぞ?」

「じゃあ、奴らはグルか!!」

 市民たちは、もはやメチャクチャだった。度重なる理解不能な出来事に、すっかり感覚を麻痺させられてしまったのだ。

「……貴様、酷い言われようだな。良くアレを護ろうと思えたものだ」

「貴方に同情されるとは思わなかったです。でも、あれも人間の一面。人格のほんの一部に過ぎないのですよ。その一角だけを見て、全てがそうだと判断するのは軽率です」

「お人好しで、底抜けに物好きな奴だ……と言わせて貰おう」

 先程まで、命懸けでいがみ合っていたとは思えない程の和やかな雰囲気であった。そしてそれは、眼下で展開されている暴動と相まって、この上ないミスマッチを生み出していた。

「ところで、後発の巨人たちが此方に向かうよう、指示を残して来たという事でしたね」

「うむ。俺が到着したのが5年ほど前の事で、先日までこの星の生活水準や文化形態、そしてナノマシンの働きぶりを観察していた。人間の姿に扮してな。計算すると、あと数日で後発の軍勢が到着する頃でな……そのタイミングに合わせて俺も正体を現した、という訳だ。総攻撃の是非は、この俺の判断によるという前提でな」

 そこまでの話を聞いて、ランスロットは後発部隊がウーノを発見できないよう、最寄りのビーコン発信機を破壊してしまおうという発想に至り、それを提案した。しかし、ジークフリードは浮かない顔をしていた。

「……実は、貴様らが防衛する事を想定して、番兵を置いてあるのだ。先程貴様が倒した巨人の、強化版がな」

「何ですって!?」

「地上用のように装甲を薄くして重量を軽減する必要が無いので、非常に強固な装甲を施した特別仕様だ。更に、エトワールが持っているブラスターの強化版を4門搭載してある。正直言って、撃破は不可能に近い。そして、ビーコン発信機はその巨人の体内に内蔵してある。取り出しは無論、出来ない」

「……用意周到な事で」

 流石のランスロットも、焦りを隠せなかった。しかし、これを撃破しなければ近日中にウーノは未曽有の危機に曝される事になる。人類の蟲化と相まって、最悪の事態を引き起こす事になってしまうのだ。

「リスクは大きいですが、やるしかないでしょう。蟲化の処置は後で考えるとして、先にその番兵を倒さないといけませんね」

「協力しよう。元はと言えば、全ては俺の責任だ。私怨でこの星を滅ぼそうとしたのだからな」

 意思を持ち、自己増殖するようになったナノマシン、それにより無尽蔵に作られる破壊神。そしてそれらは既に開発者である自分のレベルを超越していた。制御できない兵器は、完全に破壊してしまわなければならない……全人類への復讐を企てていたジークフリードにとっては非常に不本意な結末になったが、やむを得ない事であった。

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