§4

(ああ、なんて事……あの病原体は、ノーヴェから止め処なく送り込まれてれていたのね。だから何百年もの間、人間の蟲化は収まる事なく、今もなお続いて……)

 やはりあの時、強引に保護してエレクティオンに連行するべきだった……と、ノアは唇を噛んだ。あの時の判断ミスが、この結果を作り上げたのだ、という事を悔やんで。

「ガイア様、お聞きになりましたか?」

「ふむ。よもや、あの辺境から宇宙空間を渡ってウーノまで到達していた、人工的な薬物……いや、微生物が原因であったとは、考え及ばなんだ。しかし出所が分かった以上、その元を絶ってしまえば以降の被害は抑止できよう」

 そう言いながら、ガイアは天球儀を映し出し、部分拡大しながらノーヴェを指す光点を確認した。

「お父様……まさか!?」

「……ふん」

「な、何という事を!」

「ノアよ、自分自身の目で確かめて来たのだろう。あの星が既に荒廃し、生ける者の無い死したる大地である事を。そして今や、厄災をもたらすだけの存在である事を。ならば、情けを掛ける方が残酷というものだ」

 ノアに背を向けたまま、ガイアは光点が一つ消えた天球儀をジッと眺めていた。彼とて、星を消してしまう事は不本意であったに違いない。だが、死したる星が生ける者の星を侵す事は許されない……この措置は止むを得ない事だったのだと、その背は語っているようだった。

 かくして、エトワールとジークフリードの生まれ故郷ノーヴェは、その存在を大宇宙から抹殺されたのだった。


**********


「ウィル! エト! しっかりするんだ、良く見ればあの巨人は隙だらけだ!」

 別室で映像のみを見せられていたランスロットは、ロボット兵の動きに一定の法則がある事や、攻撃を必ず正面から受けている事など、攻略の糸口を既に見付けていた。問題はあの分厚い装甲だが、それをも破る手段を考え付き、密かに準備を整えていたのである。

「弾丸の数には限りがあるけど、これを有効に使えれば攻略の糸口は掴める! あとは……何とかここから出して貰わないと」

 銃の弾丸に細工を施し、準備を整えたランスロットは、ドアの外に居る監守に声を掛けた。オーケアノスと話をさせて欲しい、と。

「ランスロット様、オーケアノス様は現在、オネイロス様たちと共に攻略手段を練っている最中で御座います。無暗に……」

「だから、僕にアイディアがあるんだ! 頼むから説明をさせてよ、このままじゃ皆やられちゃう!」

「……策が?」

 監守は暫し、どうするかを迷ったが、一つでも策があるという以上は報告すべきだろうという結論に達し、再びランスロットの両手を拘束して神殿に案内した。

「オネイロス様! ランスロット様がお話したい事があると……」

「ランスロットよ、控えておれ。そなたの策とは、上空より霧散化した血液を散布し、あの巨人を無効化する事であろう?」

「違います、血は一滴も使いません」

「……申してみよ。その策とは?」

 よし! と、ランスロットは笑みを浮かべた。話を聞いて貰えさえすれば、採用して貰える自信があったのである。先ず彼は両手の拘束を解いて貰い、胸元から拳銃を取り出して解説を始めた。そして、ロボット達が背後を庇いながら行動している事、その動作に法則性がある事などを実際の映像を指しながら指摘した。

「本当だ……確かに攻撃は全て、正面で受けている」

「という事は、背後の防御は手薄かも知れぬ……と?」

「はい。それに、背面装甲は騎士の一人が放った攻撃で変形する程度の防御力、この兵装を以てすれば倒せるかも知れません!」

 その策を聞き、オネイロスとオーケアノスは審議を始めた。しかし、地上の兵力がもはや限界に近い以上、彼に頼るしかないという結論に達し、絶対に血を使った攻撃は行わない事を条件として、ランスロットをウーノへと送り返す事にした。

「ランスロット、これを身に付けるのだ。そなたの力では門を潜ってからウーノに到着するまでに時間が掛かってしまうだろう。これは時空間の狭間を瞬時に通り抜ける事が可能となる、言うなれば通行証じゃ」

「お祖父様! ありがとうございます! ……母さん、ウィルたちは必ず助けるよ、安心して!」

「お願いね。そして、あのノーヴェの男性の話も、聞いてあげて欲しいの。彼、何かを訴えようとしているように見えて……」

「うん、僕もそれには気付いていたよ。あの人、人類に恨みがあるって言ってたけどさ。本当は戦いたくないように見えるんだ」

「さ、早く! 彼らももう限界だぞ」

 有難う! と礼を言い、ランスロットは時空の門を潜っていった。生まれ育った大地を、故郷の人々を救う為に。

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