§3
「な、何だあれは。鉄人、とでも云うか……?」
「二級神などでは歯が立ちません。いや、生え抜きの精鋭を集めても、あれに打ち勝つのは難しいでしょう」
オネイロスが見慣れぬ異形の巨人に驚き、オーケアノスも額に汗を滲ませながらその実力を分析した。
「機械仕掛けである以上、内部の動力源を破壊すれば良いのでしょうが、あの外郭を貫通できる武装は……」
「落雷ではどうか!?」
「絶縁処理ぐらいは、施してあると見ていいでしょう。それにあのカラクリ、機械仕掛けにしては動きが……生物に近いように思えます」
むぅ……と、ガイアもただ唸るばかりであった。圧倒的な力を以てその力を無効化する事は出来ようが、そうした場合、周囲の市民まで巻き添えにしてしまう。ガイアの個人的な一存で判断すれば、そうするのが一番早く無駄の無い解決法である事は間違いないが、そうした場合に負うリスクを鑑みた時、安易にその決断は下せないのだった。
「オーケアノス。考え得る限り、この事態に最適な者を選抜してウーノへ派遣するのだ。解決の手段は問わぬ」
「……御意に」
非常に難しい注文であった。しかし、このまま放置も出来ない以上、やるしかない。オーケアノスは超一級の使い手から下級神に至るまで、全ての神の戦闘能力をこのケースに当てはめて思考した。だが、エレクティオンにはこの任に適する能力の持ち主は居なかった。が、その時……
「あ、あれを!!」
「む?」
オーケアノスは、モーニングスターを振りかざしてロボットのボディに一撃を喰らわせた騎士に注目した。彼の攻撃した跡は貫通こそしていなかったものの、そのボディに凹みを付ける事に成功していたのである。
「人力でも、傷を付ける事ぐらいは可能な強度……という事でしょうか」
「しかし、凹ませる事が出来る程度ではどうにもならぬ。見よ、攻撃を喰った巨人は何事も無かったかのように動き回っているではないか」
「だが、妙な。あの巨人、暴れてはいるが、市民は一人も傷付けてはいない。威嚇しているだけのようだ」
「言われてみれば……攻撃を加えているのは、立ち向かっていく兵士に限られるな」
オネイロスはこれを見て、あの悪魔は可能な限り無傷でウーノを掌握し、民を奴隷化するつもりか? という推論に達した。だが、その推論は半分正解で、半分は不正解であった。そして、ノアは見逃していなかった。ジークフリードの表情に、僅かだが憂いの気配が見える事を。
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「ハアッハッハッハ!! 見よ、手も足も出ぬではないか!! 人類の力なぞ、所詮はこんなものなのだ! ……そんな人類に人生を蹂躙され、弄ばれた悔しさ……それを忘れた訳ではあるまい! なのに何故、そんな人類に加勢するのだ!! 答えろ、エトワール!!」
「あ、兄上! 人類の全てが、兄上の考えるような者ばかりでは無いという事を……私は此処、ウーノで知ったのです。無論、このような身体にされた恨みは忘れてはいません。しかし! 全てを一緒くたに考えるのは間違いです!」
既にボロボロに傷付き、立つ事すらも儘ならぬ者が殆ど……騎士たちは、次第に追い詰められていった。辛うじて立っているウィルやエトワールも、無傷ではない。ウィルは双剣のうち片方を折られ、エトワールも実体弾は使い尽くして、光線銃のみで応戦している有様であった。
「チッ、傍迷惑な兄妹喧嘩だな! おい、そこの青トカゲ! オメェ、この街を占領してどうするつもりだ?」
「街だけではない! この星全土を掌握し、復讐するのだ! 我が身をこのような化け物へと変えた、人類にな!」
「ほー。じゃあアレか? この地球以外にも、地球と呼ばれる星が幾つかあるって事は、この嬢ちゃんから聞いたから知ってんだけどよ。それを全部、こうやって制圧していくつもりか?」
ウィルの問いに、ジークフリードは少々間を置いてから『無論だ』と回答した。そこでウィルは、今の間は何だったんだ? という疑問……と云うか、違和感に気付いた。
「もしかしてオメェ、ここ以外の地球が何処にあるのか、知らねぇンじゃねぇか?」
「……だったらどうした? 時間は永遠にあるのだ。幾歳さすらう事になろうと、必ず全人類に復讐してやるさ!」
「へぇー。じゃ、この地球の場所はどうやって調べたんだよ。この嬢ちゃんは、500年さすらって漸く辿り着いたって言ってたぜ?」
このやり取りで、エトワールはハッと気付いた。そう言えば、人類の異変は自分が漂着した後、暫く経過してから起こったのだ、と云う事実に。
「兄上……まさか、私の乗ったシャトルに細工を!?」
「ハッ! 今頃気付いたか! そう、シャトルのスラスターに超小型ガイドビーコン発信機を付着させておいたのだ。方向変換でスラスターを噴射するたびに、その場に痕跡を残すようにな!」
「で、では、あの蟲化の病原体は……」
「人体に侵入すると、その細胞を変質させて蟲化するよう細工を施した、細菌サイズのナノマシンだ! ビーコン波を辿って、ノーヴェから無尽蔵に此処まで到達する! そして更に、あの巨人たちも、同じナノマシンによって制御されているのだ!」
何という事だ……と、それを聞いていた騎士たちはガクッと膝を折った。未知なる病気の正体は、目の前に居る青い悪魔が、人為的に作り出した超ミクロサイズのカラクリによる作用だったのか……と。そしてエトワールは、自らが全ての元凶であったという事実に気付いて、へなへなとその場にへたり込んだ。
「……ッ!! おい、嬢ちゃん! 呆けてる場合じゃねぇぜ! 確かにアンタがあのバイキンや、青トカゲ野郎をここまで案内しちまったのは事実だろうさ! けど、それを償う為にも、アンタはアイツと戦うべきなんじゃねぇか!?」
「……ふっ、ふふ……あはははは! まさか、そなたに叱られる日が来ようとはな、ウィルフレッド! そうだ……その通りだ。私には、ランスロットが再び帰って来られる場所を、死守するという務めがある!」
「そうだぜ! それに俺だって、ノアと離れ離れのまま、お陀仏は御免だからな!!」
再びその瞳に炎を燃やし、二人の勇士は敢然と立ち上がった。そして、その様を見たジークフリードは、またも『愚かな……』と、嘆きの笑みを漏らすのだった。
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