§7
「これが……?」
「はい! 当方の自信作で御座います。ライフルのノウハウをベースに、エトワール様から伝授していただいた回転式弾倉の構造を加え、強度も従来の銃身の4~5倍を誇る物となりました。その代わり、小型銃としては些か重量がかさむ事となってしまいましたが……」
確かに、手に持ってみるとズシリと重い、確かな手応えが感じられた。エトワールのハーフブラスターより更に重い感じだ。弾丸が入っていない状態で約1キロ、装填すれば更に重くなるという。
「まぁ、このぐらいの重さなら腕を鍛えればじきに慣れると思うよ。じゃあ、撃ち方を教えてくれるかな?」
「分かりました。では此方へ」
建物の裏側、山の斜面に面した方向に人を象った的が用意してあった。実弾を使ってあれを射抜いてみようという訳だ。
「装填数は6発、撃ち尽くしたらこのボルトを引いてシリンダーを横にずらします。そうすると空になった薬莢が排出できるので、此処に新たな弾丸を込めるのです」
スペア弾丸は6発が輪になって繋がったもので、一発ずつ装填する手間を省いたものだった。これもエトワールが伝えた技術だという。
「論ずるより、まずは実践。宜しいですか? 右手でグリップをしっかり握り、左手は銃の台尻につけます。そして的に向けて照準を合わせ、撃鉄を右の親指で引き起こします。そうするとシリンダーが回り、いつでも撃てる状態になります。あとは、引き金を引くだけです」
「ライフルと違って、小脇に抱える訳じゃ無いからな……衝撃をどこまで吸収できるかが勝負だな」
そう言いながら、ランスロットはターゲットに照準を合わせた。リアサイトの山の間にフロントサイトの突起が合うように狙いを定め、更にその向こうにターゲットを捕えた。そして引き金を引いた!!
ダァン……という音と共に、硝煙の匂いが周囲に広がった。弾丸はターゲットの中心を大きく外れ、人型を模したその板の脚の間をすり抜けていたが、ランスロット自身は銃を構えたままの恰好で立っていた。
「あはは……外しちゃった」
「倒れなかっただけ上出来だ。その撃ち方では、普通なら衝撃で後ろに吹っ飛んでいる」
「ええっ!?」
「彼女の言う通りですよ、ランスロット様。衝撃は吸収するのではなく、逃がすものです。手首はガッシリ固定しすぎない方が安全です」
その説明を聞き、ランスロットは驚いた。だって、しっかり固定してないと銃身がブレてしまうじゃないか、と。しかし、実際はむしろ射撃前の照準をしっかり決めて、引き金を引いた直後に力を抜くぐらいで丁度いいのだ。但し、この時にグリップする手から力を抜いてはいけない。柔軟にするのは手首だけなのだ。
「む、難しいんだね」
「なに、すぐ慣れる。弾丸を抜いた空砲を練習用に沢山注文しておいた。100発も撃てば大丈夫だろう」
「それから、今の弾道は下に逸れましたが、これは引き金を引く際に力を入れ過ぎた所為ですね。そうすると銃身が下を向き、狙いが外れてしまうのです」
「意外だなぁ、ガッシリ支えてないとダメなのかとばかり思ってたよ」
ライフルの場合は両腕全体を使ってしっかりと銃身をホールドするので衝撃は腋の下で吸収するのが普通だが、拳銃の場合は両腕のみで射撃をする関係上、撃ち方のコツも随分違うらしい。
「よし、もう一発!」
「いいか、スナップは柔らかく、グリップはしっかりだ。しっかり!」
ん、と頷いて、深呼吸を一つ。そしてランスロットは、真綿を握るように軽く引き金を引いた。と……今度は上下角は安定したようだが、代わりに左右にブレるようになった。これは握り方に問題があり、撃鉄を起こしやすいようにと右手親指の付け根を撃鉄の近くに持って来ていた事が原因だった。
「これでは駄目だ、銃身もブレるし手を痛めるぞ。グリップはこの位置で握るんだ」
と、エトワールが両手で持ち方を修正し『この形だぞ』と念を押した。その時、彼女の髪の香りがランスロットの鼻腔をくすぐった為、彼はついウットリとしてしまった。
「……聞いているのか?」
「き、聞いてるって! 頭の中で反復してたんだよ」
そして3発目。スナップもグリップもアドバイスを受け、今度は何とか当てたいところ。しかし、銃弾は僅かに中心を外れ、的の下を掠めた位置に命中した。だが、修正を加えながらであっても、3発目でこの位置に当てたのは凄いと逆に絶賛された。
「あとは慣れだな。銃の重さと発射時の反動処理、次弾装填のスピード。これは練習して身につける以外に無い」
「その通りですな。で、いま試射された弾丸が、38口径の通常弾。そしてこちらが……」
木箱に入ったそれは、先程見た弾丸より全長が僅かに長く、弾頭が平たくなっていた。
「マグナム弾ですね。通常弾の数倍の破壊力があります」
「え!?」
「まぁ、使う事は無いと思うんだがな。一応、私の銃と同じ仕様の弾丸を使えるよう設計して貰ったのでな」
「な、なるほど……で、どの位の破壊力が?」
その質問に店主はニヤリと笑い、エトワールの目を見て彼女が頷くのを確認してから回答に入った。
「通常弾は貫通性重視ですが、マグナム弾は破壊力重視なんです。つまり……」
店主は通常弾とマグナム弾を順に弾倉に入れ、それぞれの威力を見て貰う事にした。
「先ず、通常弾です。弾丸は的を貫通して後ろに突き抜けています。そして次に……」
「……!!」
ドン! という、通常弾とは違う発射音が聞こえたかと思ったその刹那、ターゲットは粉々に砕け散っていた。
「要するにマグナム弾は弾頭が柔らかくて、命中した瞬間に的の中で四方八方に炸裂するんだ。だから表面を貫通した後、内部で爆発して……ああなるんだ。尤も、薬莢に仕込んである火薬の量も違うから、単純に比較するのも何だがな」
これは……護身用だからと言って気軽に扱える代物では無いな、とランスロットは改めて感想を述べた。その回答に、店主とエトワールは『その考え方があるなら、大丈夫』と口を揃えた。
「では、また良しなに」
特注してあった、左胸に付ける形のホルスターを受け取り、上着で隠せる位置に装着し、弾倉には威嚇用の空砲を詰め、腰のベルトに予備弾倉ケースを取り付けるアタッチメントを装備した。これでランスロットの望む装備が揃った訳だ。あとは腕前の問題なのだが……
「さっきのアドバイス、何気にレベル高いよね?」
「他に言いようがないのだ、仕方があるまい」
先は長そうだな……と遠い目になるランスロットに、エトワールが『まぁ、そなたが撃つ前に私が撃って片を付けていると思うが』と言って含み笑いを浮かべた。無論、ランスロットとしても自分ではなるべく撃ちたくないのが本音であったのだが、彼の思惑からすれば逆に『自分が撃たなければいけない』が正解なのだった。
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