§5

 ランスロットの回復ぶりは目を見張るものがあった。彼は採血が再開されたにも拘らず筋肉トレーニングを始めており、凡そ失血で最近まで伏せっていた怪我人とは思えない程の快調さを見せていた。いや、むしろ血が有り余り、少々の興奮でも収まるのに時間が掛かる有様であった。

 そんな彼ではあったが、週に一度はマムシ料理を所望する程に気に入ったようで、考案者であるエトワールも喜びにたえないという事であった。しかし、思わぬところでその弊害が出ていた。

「……眠れない。ちょっとマムシを食べすぎたかなぁ?」

 そう、ランスロットは精の付け過ぎで、夜半を過ぎても眠れない状態になっていたのである。自分は民に血を提供する義務があるから、このマムシ料理で体を強くして、少々多く血を採られても大丈夫なように備えようという考えがあったのだが、些か摂取しすぎたようで、興奮状態による不眠が続いていたのだ。

「酷い嵐だ……エトワール、怖がってないかな?」

 折からの興奮状態の上、激しい雷鳴と壁や屋根に叩きつける雨粒の音で、ランスロットは益々眠れなくなっていた。が、少しだけでも休眠を摂ろうとして、彼は布団を被って懸命に心を鎮めようとしていた。しかし、その時。城の最上部に立てられた旗竿に落雷し、その轟音は城内の全ての従者や王族を叩き起こした。

(凄い音だったな……民は大丈夫だったろうか?)

 ランスロットが皆の身を案じ、窓の外を眺めていると、突然隣室から扉を破ってエトワールが駈け込んで来た!

「ランスロット、大丈夫か!?」

「……ぼ、僕は平気だよ。それよりエトワール、君こそ大丈夫かい?」

「私はそなたのボディガードだ、如何なる時でも護衛に駆け付けるのが務め!」

「うん、それは有難いと思う。でも、その姿で飛び出して来るのはどうかと思うけど……」

 エトワールは、ブラスターを構えながら『何を言っているのだ?』と不思議がっていた。だが、彼女自身も、自分が半分寝惚けていたという事を自覚していなかったのだ。何しろ、その姿は……

「ぼ、僕は只でさえ興奮気味なんだ。その姿は刺激が強すぎて、その……」

「……? …………!! あ、あ……」

 まずい! と思ったのだろう。刹那、ランスロットはエトワールに飛び付き、その口を掌で塞いでいた。

「むーーーーーーーーーーーー!!」

「……見てないよ、見てない……ちょっとしか……」

「見たな? 見たのだな? そなたは……私のこの姿を……」

「……うん、見た。嘘はつけないし、誤魔化しも効かないだろうからね。正直に言う……全部見た」

 堂々と宣言するその態度に、エトワールはただ驚くだけだった。但しランスロットの鼻からは鮮血がほとばしり、極度の興奮状態を迎えていた事を物語ってはいたが。因みにエトワールはショーツのみを身に付け、後は素裸という姿だった。太腿に装備されたホルスターが、更に色香を醸し出していた。

「……忘れろ、とは言えない。確かに不用意に飛び込んで来てしまった落ち度は、私にある。だが……」

「エト、僕は罪深い事をしてしまったかも知れない……しかし、状況が許さなかった事実も、考慮してくれると助か……」

 そこまで言って、ランスロットは仰向けに倒れた。興奮状態が限界を超え、青少年としては耐えがたい状態になったのだろう。事実、ランスロットの寝間着は部分的に異形を象っており……

(……!! 押し返してくる……だと!?)

 興奮した男子がどのような状態になるか、それはエトワールも知識として知ってはいた。が、目の前でそれを見たのは初めてだったのである。

「……す、凄い……此処まで強固になるのか……私はこれを受け容れられるのか……って、何を言っているのだ私は!!」

 その心境は、彼を男性として特別視するエトワールとしては、非常に複雑であったという。なお、彼女は暫くその異形を象る部分から目を離せず、呆然としていたという事であるが……これを責めるのは酷というものであろう。

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