§6

「……どうぞ」

 ランスロットの一声で、正面のドアがそっと開かれた。そこには見慣れぬ顔のメイドが立っていた。新入りだろうか、ウィルですらその顔に見覚えは無いという。

「ランスロット様。あるお方からのお招きを、受けていただきたく存じます」

「招き? いきなりですね。普通そう云う話は、王室警護団を通して伝わるものですが」

「この国の王室など、問題にならない身分のお方が直々にお招きになっているのです……断る事は許されません」

「何……!?」

 ウィルが無意識に剣の柄を握り、エトワールも銃を背に隠しながら警戒していた。しかしそのメイドは至って涼しい顔のまま、言い放った。

「お二人とも、無駄な事はお止しなさい。剣の刃も銃弾も、私には通用しません」

「なっ!?」

 あからさまに闘気を剥き出しにしているウィルはともかく、闘気も武装も隠している自分まで何故……と、エトワールは戦慄した。そしてメイドは、ランスロットとウィルの間で立ち止まり、そこで跪いて驚くべき言葉を放った。

「お久しゅう御座います、ノア様」

「……え!?」

 一同は、その一言に息を呑んだ。ノアの姿が見えるのは、ランスロットとウィルだけの筈。なのに何故!? と。

「貴女は……な、ナパイア!? では、ランスを招いているのは……」

「はい、ガイア様で御座います」

「……!!」

 ガイア――ランスロットを以てしても『その名だけは知っていた』というレベルの、神の中の神。万物の王、全ての造物主。その神の長が、直々にランスロットを呼び付けているという。これは只事ではない。

「おいノア、ガイアって確か……」

「……父の名です」

 その返答に、ウィルは思わず生唾を呑み込んだ。まさに、サザーランドなぞ問題にならない格の者が、目の前の少年を呼んでいると云うのだから、無理からぬ事だが。

「……ガイア……旧約聖書の中に出て来る、造物主ガイアの事か?」

「どうやらビンゴらしいぜ。んで、それが、このノアの親父なんだとよ」

「……!!」

 漸く、全員が事の重大さを理解したようだ。流石に、これは無視できない……と云うより、無視したらこんな星ひとつ、簡単に消し飛んでしまっても可笑しくは無い。

「事は急を要します。ランスロット様、御同道をお願いします」

「私は? ナパイア」

「用命を受けているのは、ランスロット様お一人。ノア様はその気になれば、いつでもガイア様の元へ赴く事が出来るでしょう」

「何故、僕を……?」

「それは……私は遣いを申し渡されただけですので。仔細は天界・エレクティオンにてお聞きください」

 嫌も応も無い、一方的な召喚。だが、断る事は許されない。ランスロットは困惑しながらも、その召喚に応じるしかなかった。そしてナパイアがスッと手をかざすと、そこには星空のような景色が覗き、一本の光の道が足元に伸びていた。

「仕方ないね。じゃあ、行って来るよ」

 その台詞にリアクション出来る者は誰一人として居なかった。皆、突然の出来事にどう対処していいか分からなかったのだ。しかし、彼がゲートの向こうに消える寸前、ハッと我に返った者が一人だけ居た。

「ら、ランスロット!」

 その呼び声に、ランスロットは振り返った。声の主はエトワールだった。彼女はナパイアの開いたゲートに駆け寄りながら、ハーフブラスターとホルスターを一組、ランスロットに手渡した。

「これは……君が持っていなくちゃ! 大事な銃なんでしょ?」

「そなたの命の方が大事だ! 銃は替えが利くが、そなたは一人しか居ないのだからな」

「……!! 分かった、大切に預かるよ」

 ランスロットは、預かった銃をエトワールと同じように太腿に装着すると、それを長い上着の裾で隠して『よし』と頷いた。

「ランスロット様、お早く」

「御免なさい……ウィル、エトワールと母さんを頼んだよ」

「ノアはともかく、そっちの嬢ちゃんに心配は無用だろ。安心して行って来い! 何なら、もう帰って来なくても良いぜ」

 冗談なのか、本気なのか……どちらとも取り難いリアクションを返し、ウィルはニッと笑った。その笑みに、ランスロットもフッと微笑んで返答に代えた。そして次の瞬間、ゲートは閉じ、そこには何も無かったかのように静寂だけが残った。

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