§8
「いいよ、一人で大丈夫だから」
そう言って、ランスロットは単身で城下に出た。紺碧の青空に浮かぶ太陽。これだけを見れば、至極平和な街並みであった。が、一瞬の油断が命取りとなる危険な街……いや、その脅威は星全体に及んでいるのだ。
「段々、酷くなるね。僕の血だけで何とか出来るか……いや、やらなきゃいけないんだね、母さん」
「無茶はいけないわ、ランス。私のようになってからでは……危ない!」
「……!?」
油断だった。完全に頭上を取られた形で、蟲が降って来た。この体制からでは防御も出来ない。結界を張っている暇もない。万事休す、であった。が……真上から襲って来た筈の蟲は彼のやや前方に落下、その体からは薄く煙を引いていた。
「騎士の銃……? 違う、音がしなかった」
「ボーっと歩いているからだ、その立派な装備が泣くぞ」
未だ、何が起こったか理解できずにいたランスロットの背後から、突然掛けられたソプラノボイス。ハッと振り向くと、そこには見慣れぬ装備を携えた少女が立っていた。甲冑とドレスを合わせたような居出立ちの彼女は、その装備を脚に付けたホルダーに収めると、ゆっくりとランスロットに近付いて来た。
「怪我はないか」
「た、助かりました。危ないところを有難うございます」
「礼には及ばない。ところでそなた、王宮の者か?」
「え? あ、あぁ、はい」
ふん……と鼻を鳴らし、少女は背を向けた。ランスロットはそんな彼女に、慌てて声を掛けた。
「あ、あの! 助けていただいたお礼がしたいので、一緒に来ていただけませんか? 僕はランスロット・パロ・サザーランドと申します。一応、国王陛下の縁者です」
「礼には及ばぬと言った筈だが……王の縁者だと言ったな? 私はエトワール、流浪の戦士だ」
長い髪をなびかせ、エトワールと名乗る少女は振り返った。彼女の目はまるで射抜くような鋭い視線でランスロットを見て、やがて同行を承諾した。だがその時、ノアは彼女がただならぬ雰囲気を纏っている事を、瞬時に見抜いていた。
(彼女、ウーノの子じゃない。この雰囲気、この独特な匂い……確か何処かで……)
記憶を手繰り寄せるが、直ぐに思い出す事は流石のノアにも無理だった。だが、程なくして彼女は気付く事になるのだった。少女――エトワールが、嘗て視察に赴いたノーヴェからの移民である事に……
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