§3
その頃、ガイアはオネイロスを正面に置き、問答を繰り返していた。話題は勿論、ウーノに於ける謎の難病の蔓延と、それの抑止についてである。
「あれは自然の疫病とは思えません。何らかの人為的操作が為されているように見えてならないのです」
「しかし、ウーノは他の地球に比して文明の立ち遅れた、未開の地と言って差し支えのない星。その住人に、あのような怪物を生み出す知能があるとは思えぬのだが」
「ふとした事から、天才的なひらめきを得る……考えられぬ事ではありませんぞ」
「むぅ……」
熱く事を語るオネイロスに対し、ガイアはそれをやや煩げに捉えた。どうやらガイアは、ウーノの状況に対してさほど興味を示してはいない様子であった。無論、全銀河を統治する立場の者としての務めは果たさねばならないが、人類そのものを自らの失敗作と評している彼にとって、それらが何を仕出かそうが知った事では無い、と云うのが本音であるらしい。
「ガイア様、ノア様がお目覚めになられました」
「おお、ノアか。ウーノでの働き、大儀であった」
「そんな、お父様。私は事を成し遂げずに戻って来たのです。お叱りこそあれ、褒められる言われは……」
そこまで口に出した時、自分をここまで連れて来てくれたクレイオスが表情を強張らせ、唇を噛んでいる事に気付き、彼女は思わず口を噤んだ。が、フォローに入るより早く、クレイオスがサッと跪き、ガイアに対して進言していた。
「ウーノに於ける軍勢の指揮権は、私にありました。依って此度の敗走の責は全て私が負うべき事。ノア様は……」
「控えよ、クレイオス。今は過ぎた事を論じている時ではない。それに相手は無尽蔵に増え続けていたとの事ではないか。あの場に留まり戦いを続けたところで、無駄に消耗するだけであった事は明白。貴公の判断は寧ろ正しいと言える」
「……勿体のう御座います、オネイロス様」
未だ失態を恥じるクレイオスを、オネイロスが取り成した。そしてその腕に座したまま、ノアが会話に割り込むようにして発言を始めた。
「お父様、そしてオネイロスも……聞いて下さい。私は彼の地で、偶然から彼らを無力化し、感染前の姿に戻す方法に気付いたのです」
「の、ノア様! いけません、あれは……」
「クレイオス! ……お続けください、ノア様」
ノアが何を言おうとしたのかを察したクレイオスは、その手段が如何に危険であるかを知っていた為、それを他の者に知られる事を恐れていたのだ。だが、ノアが自ら語り出してしまった以上、彼にはもうそれを抑止する手立ては無かった。
「私の手に傷を付け、その血を浴びた者が、人間の姿に戻って意識を取り戻したのです。恐らく、私の血には治癒効果があるのではないかと思われるのです」
「それは! ……つまり、神の血液であれば効果があるという事に?」
「いえ、オネイロス様。それはありません。現に、私の血では蟲は元に戻る事はありませんでした。恐らく他の誰が試したとて、結果は同じになるかと」
むぅ……と、オネイロスは考え込んでしまった。解決の手段は在る、しかしそれはあまりに危険な行為。如何に女神とは言え、ウーノ全域に散布する程の血液を持っている訳ではない。そして、僅かに採取した血液を培養し、増量する事も恐らくは不可能。つまりその解答は、犯してはならぬ禁断の方法であると、ノア以外の全員が考えていた。だが、ここでノアが思わず叫んだ。
「お父様! 他に手立てが無いのなら、私はウーノへ参ります!」
「ならぬ!! ……それだけは、まかりならぬ。人類なぞ、命を賭してまで救う価値は無い……増して、お前は女神。なくてはならない存在なのだ。軽率な行動は許さぬ」
「しかし、お父様!」
「クレイオス! ノアの監視を命ずる。決して行かせてはならぬ」
「御意!」
「お父様!!」
ノアは必死に抗議を続けたが、ガイアは聞き入れなかった。そしてオネイロスがクレイオスに、ノアと共に下がるよう命ずると、彼は最敬礼の後に踵を返し、退室して行った。未だ抗議を続けるノアをその腕に乗せたまま……
「ガイア様、警戒を厳に。ノア様はお優しい……いや、優し過ぎるお方です。必ずや隙を衝き、ウーノへと向かうでしょう」
「……ノアを離れに移せ。そして周囲を結界で固めるのだ」
「御意に」
その命令は即座に実行に移され、ノアは別館へと移された。そしてその周囲には結界が張られ、更にその外周をティターンが覆い固めるという徹底した措置が取られた。その措置は、ウーノが壊滅するまで続くように思われた。が、しかし……
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