フランスパン殺人事件

梟爺さん

第1話 フランスパン殺人事件

フランスパンとは....

フランスパンである。


それ以上でもそれ以下でもない。

正直もっと詳しく知りたい方は自身の目で調べていただきたい。


皆は北海道で水をかけたタオルを2、3回振るうだけで鈍器になるという話を聞いたことはないだろうか?あれで殴らればひとたまりも無いだろう。

硬いもので人を殴れば打ちどころによっては死ぬ。

では、フランスパンではどうだろうか?パン界の小豆バーであるフランスパンなら殺害は可能だろうか?


そう考えながら煙草を蒸す1人のコート姿の男がいた。名前は『アラン』。職業は探偵。

彼が今いる場所は大吹雪に見舞われた大きな屋敷。

ここには彼を含めた計七名の客人が集まっている。

なんでも招待状には家主である女性『ドロシー』が普段お世話になっているお礼がしたいとのことで招待したらしい。

しかし実はアランは正規の招待客ではなく、本当の探偵が来るはずが前日にあずきバーで重傷を負ってしまったことで、たまたま近くに通りかかったアランに手紙を渡したとのこと。


この件をドロシーに話したら対応に困っていたが折角だからと入れてもらえた。

ドロシーは綺麗な女性でかつ心優しい人物だ。アランともすぐ打ち解けた。


時間になりドロシーが他の客人を集めて昼食会を開いた。アランは当然マナーも分からず周りの見様見真似で食べていたが、隣の少し太ったちょび髭の男性が


『そう緊張せずとも良い。ね?ドロシーさん?』


そう笑いながらほぐしてくれた。ドロシーもそれを肯定した。ちょび髭の男は『バーモン』。

食品工場の社長だという。


一方でアランの前の席の男性は優雅に食べていた。浅黒い肌に白髪の青年。彼は名前を『トシゾウ』と言い、若いながらも社長に上り詰めている。


昼食の最中にフランスパンが入ったバケットが流れてきた。フランスパンを見るや否やトシゾウはフランスパンを持って立ち上がり、大きく息を吸って


『フランスパァアアアアアアアアアアアアン!』


そう叫びながらフランスパンを隣に座っていた男爵に振り下ろした。


バキィイン!


と鈍い金属音が響き渡り、フランスパンはへし折れた。男爵は頭が半分になって倒れた。

男爵はそのまま力が抜けたように机に突っ伏した。

ドロシーは次の瞬間叫び、バーモンは


『男爵が倒れた!誰かが毒を持ったのか!?』


その言葉にアランは白眼になった。心の淵で彼は叫んだ。


『いやいや!今どう見たってあの人がフランスパンで顔面叩き割ったでしょうが!なに!?見えてないの!?』


アランは落ち着いてトシゾウに


『今あなたが....』


そう言おうとした時にトシゾウは頭が半分になった男爵を抱えながら


『男爵ゥウウウウウウウウ!どうしたああああ!誰だ!?誰かが毒を盛ったのか!?』


もはやアランの頭は限界だった。他の客人達も駆け寄って


『男爵ぅううううううう!あああああああああ!』


ドロシーは混乱して胃がもはや割れそうなくらい痛くなったアランに


『あなた探偵代理で来たのよね?この事件の犯人解決できる?』


もうアランは誰かが台詞を聞くだけで体も心も悲鳴を上げまくっていた。アランはもはや帰りたかったが外が大吹雪なので1日はいないといけない。


アランはこの時、もし無事に帰れたなら探偵をぶん殴ると拳に誓っていた。

アランは皆を落ち着かせて男爵はとりあえず横に置いといて会議を始めた。


アランは客人全員に


『あなた達の中に犯人がいます...というか分かってます。はい360度、上下左右どこから見ようが1人しかいません。そして凶器はフランスパンです....。

こんな事言わせないでください』


ざわつく客人達にアランはトシゾウを指差して


『犯人は貴方です!てかマジでもう帰してくれ!頼む!』


そう強く言ったがトシゾウはボケーっとして

周りも


『トシゾウはないよね』

『あぁ彼がやるとは思えん』

『いやいやアランさん、それはないっすよ』

『アランさん、ちょっと無理ないですかね?』


アランは今ならこの人達を殺せると一瞬思ってしまった。だが頭を振るって、冷静になって客人達に尋ねた。


『みなさん..もし仮に!仮にですよ。みんなが見てる前で唐突にフランスパンを持って叫びながら隣の人を殴り倒したらどう思いますか?

本当に現実味はないんですが現実なんです』



客人達は声を揃えて


『そいつ頭おかしいだろ』


アランはめちゃくちゃゲッソリしていた、もう今すぐ帰りたかった。

泣きたかった、今すぐにこの館が爆発しないかなと心の底から思っていた。

とりあえず客人から指紋を採取し、最後の割れたフランスパンにある指紋と照らし合わせた。


やはりトシゾウの指紋だった。もうウキウキでこの証拠を皆に示すが皆はまだトシゾウが犯人ではないと言っている。


アランは怒りを通り越してもはや神の領域だった。なんかもうどうでも良くなっていた。

心の底で


『あぁこいつら全員、フランスパンでぶん殴りてぇ....。有名な偉人の言葉にあったな。怒りが収まらない時は心の中で10数えてからフランスパンで叩き潰せって』


アランはふと気になった。叩き割られた死体をよく見ると血が全く出ていない。

いやそれどころか全然質感が人ではない。

割られた断面図をよく見ると、蝋か何かでできた人形だった。アランはそのことを客人に説明すると

ドロシーが


『じゃぁ、男爵は偽物だったってこと?』


アランは慌てる皆に


『落ち着いてください。例え蝋人形だろうとフランスパンで頭を割るのは....可能です』


客人はざわざわしながらアランの話を聞く。

アランは続けて


『あずきバーという商品をご存知でしょうか?あれはアーサー王伝説のエクスカリバーをも超え、弾丸として発射すれば戦艦が一撃で木っ端微塵になるほどの商品ですが、フランスパンはパンの中のあずきバーと言えましょう』


だんだん客人はこいつ何言ってんだの表情になったがアランはもう目が逝っていた。


『ではなぜ男爵は偽物なのか?それは男爵の身体の中におみくじが入っていました。中国のお菓子に似たようなものがあり、これを再現しようとしていたのかと』


アランは続けて近くにあったマシンガンを持って

トシゾウに向けて連射した。アランは大笑いしながら


『アーヒャヒャヒャ!粉微塵になれええええ!』


全て打ち尽くすとトシゾウが全ての弾をフランスパンで切り落としていた。アランは


『それだけの腕があれば頭をかち割るのも簡単でしょう!だがなああああ!これはどうだ!』


今度は部屋にかかっていたロケットランチャーに彼はあずきバーを装填しトシゾウに向ける。


『喰らえ!『天を穿つ絶対零度の弾丸(あずきバー)』!』


思いっきり発射したが紙一重のところでトシゾウはあずきバーを切り裂いた。


綺麗に二つになり、その瞬間にトシゾウは大きく踏み込んで


『外れたな!秘技!『最果ての大剣(フランスパン)』!」



誰もがアランの身体は真っ二つになると思った...


キィイイン


鈍い金属音と共にフランスパンがへし折れた。動揺するトシゾウにアランはコートを脱ぎ脇腹にあったものを見せた。


『ふっ、流石に2度は切れぬだろう。そう『天を穿つ絶対零度の弾丸(あずきバー)』にはこういう使い方もあるのだよ!その名も!』


「『氷塊守護領域(あずきバー)』だ!」


トシゾウは自ら負けを認めた。しかし、その瞬間にアランは我に帰った。

自分が何をしていたか思い出せず、もはや疲労しすぎて立っているのも限界である。


その時に本物の男爵が扉を開けて現れた。客人も男爵も拍手をした。男爵はアランに


『おめでとう!君はこの館に散布されてい『た狂化ウィルス(ハッピーターンの粉』を見事に打ち破った!あのまま暴走して終わるかと思っていたが....

認めよう!君は最高の探偵だ!』


なんでも全てドッキリだったらしく、ハッピーになる粉を撒かれていたらしい。そして男爵は疲れ切ったアランに望みを聞いた。アランはフッと笑って


『今すぐ、家に帰りたいです。あとトシゾウとあずきバーとフランスパンとハッピーになる粉へ

ごめんなさい。』


絶対に続けたくない。

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