第11話 憎しみ


 近づいてくる数十分の間は光から目を逸らせなかった。親らしい男の第一声が、

「雄太」

 だった。心配しているような声で少し困惑しているのが伝わってくる。


「帰れっ!」


 迎えに来た雄太の親と周囲の人間が小雪に気づいたのはその時だった。純白の着物を見て、驚愕に目を見開いていた。


「雪の精」


 誰の言葉だったろう。集った中の一人が小雪を指さしている。


「えっ」


 雄太が小雪を振り返る。村人の瞳に怒りがともる。


「こいつが居るから雪がやまないんじゃ」


「殺せっ」


「逃がすな」


 とっさに小雪が洞窟から逃げ出す。体に震えが走った。雪の精は人間に受け入れられない理由を小雪は思い知ったのだ。


(姉様)


 長い間休んでいたお陰で駆ける事が出来た。雄太の親が伸ばした腕の下を通り、人がいない上方へと逃げ惑う。夜なのが幸いしていた。


 そんな時。上空から降りてくる人影が暗闇の中、浮かび上がった。小雪の傍に着地すると片手を振って強烈な寒波を村人へと放っていた。


「ふわあ・あ・あ」


 悲鳴。恐慌が巻き起きる。強風と極寒の空気に村人が飛ばされ、散り散りに逃げ惑う。


 洞窟でちびを抱きかかえた雄太を一瞥して小雪は足を止めた。彼の目に憎しみが宿っている事に気づき、そっと目を伏せるしか出来なかった。


「小雪。真冬はどこだ」


「ら、雷様!」


 小雪の知っている白金の髪を持つ一人、雷の瞳は苦渋に満ちているように見えた。


「どこだ、と聞いている」


「ご、ごめんなさいっ。今、姉様とあたしで一生懸命必死にさがしてます。姉様を怒らないで」


「何を言っている?」


「え?」


(姉様と同じ白金の髪の持ち主である雷様が知らない?)


 その疑問を抱きながら、恐る恐る雷へと胸元にしまっていた書状を小雪が取り出した。


 だが、ざっと目を通した雷は書状をあっさりと破り捨てたのだった。


「なにするんですかっ!」


 怒鳴りながら雷の足元に駆け寄り、千切れた書状をかき集める。必死に動かす手が次の予想外の言葉で止まった。






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