第10話 口減らし
☆★☆
「くしゅんっ」
寒さなど感じないはずの小雪がくしゃみをした。直に見つかった洞窟内で火を起こした雄太から離れて、入り口から外を見渡し両手で口もとを覆う。
そんな小雪へ心配そうな視線が投げかけられていた。
村の人間もよく訪れる場所なのかもしれない、薪となる木の枝が奥の方で山になっている。外は既に薄闇に包まれ、焚き火の火だけが揺れるように洞窟内を照らし出す。
「小雪ちゃんも火にあたりなよ」
闇を押しのける光、地上に降りるまでしらなかった火と言うもの。一瞬だけあたった小雪はその熱さに自らと相容れないものだと瞬時に理解していた。入り口に陣取ったのは、だからと言う訳ではない。自分を心配して真冬がここまで来るかもしれない。それが小雪には気になったのだ。ふるふると首を横に振る小雪が再び外を眺め続けた。
里の事を気にしているような雄太もなんとなく小雪の心が分かったのだろう、火を見つめる瞳は目の前の明かりよりも何か別のものを映しているように見えた。雄太の手の平がちびの背中を撫で付ける。その都度気持ちよさそうにちびの目が細められた。
雪の降る音だけが静かに流れる。そして、
「やまないんだ」
「んっ?」
小雪は唐突に話し始めた雄太へ振り返った。ここまで一人で抱えてきて、誰かに話したかったのだろう。相手が同い年くらいに見える小雪だったのも大きいかもしれない。ただその言葉は重い響きを纏っていた。
「雪がさ、やまないんだ」
深々と降り続ける雪を小雪はなんとはなしに振り返る。
「雪のせいで食べ物が残り少ないって言われて……。こいつをしめるって言われたんだ」
「しめるって?」
ちびの頭に手を乗せる雄太の顔は悲しそうに歪んでいた。
「殺して食べるんだって。だからぼくはこいつを逃す為に里を出たんだ」
どうしていいのか分からない、そう思っているかのように、それきり雄太の口は閉ざされた。
「食べ物」
もしも食べる雪がなくなったら、どれだけの恐怖が生まれるだろう。小雪は考える。自分達すら生きていけない状況下になったら小さな命、と言うか口を減らすしかないのではないだろうか。むしろ雄太の行動の方に問題があるように感じられる。
麓へぼんやりと視線を向けると黄色く揺らぐ点が何個も見えてきていた。
「あれ、なんだろう?」
「どれ?」
隣に並ぶと小雪の眺めている先へと目線を雄太が向ける。
こちらへと向かってくる松明の光に焦ったのか、
「ちくしょう」
と雄太は独り言ちていた。ちびを抱き寄せる雄太に小雪が首を傾げた。
「おっとう達だ」
応えるように言って里を見下ろす雄太の手が震えている。
光が近づくにつれ諦めの色が瞳に宿っていくように見えていた。
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