第4話 笑顔
その言葉を聞いて、小雪もなんとなく無理をしている表情でやっと笑った。
「あたしはまた妊娠でもしたのかと思いました」
瞬間、その言葉に鋭い眼差しで真冬が反応した。
まるで精神まで切れそうなほどにその視線は冷たい。
軽い冗談だったのだろう。真冬の為にした小雪の優しさかもしれない。
険しいその表情に小雪の笑顔が凍りついていた。体が震え上がっている。
「あ、あ、ご、ごめんなさい」
数秒間の沈黙。逃げるように小雪が目を瞑る。
そんな小雪のおでこを、真冬はつんと小突いていた。
「ばか」
恐る恐る瞼をあける小雪へ、今見せたのが間違いだったかのように、真冬はいつもと変わらない態度で笑った。
「姉様」
「ん?」
やはりどこか引っかかったのだろう。小雪の口から今迄溜め込んだ物が溢れ出した。心に積もっていただろう本当のものが。
「なんで最近前みたいに笑ってくれないんですか」
涙が零れ落ちている。
「いや、笑っているじゃない、ほら」
「心がこもってない。見れば分ります」
普通の笑顔、ぱっと見たらそうとしか思えない笑顔が強張った。
「な、何を言って」
「ずっと一緒だったのに分からない訳ないです」
思わずたじろいだ真冬に追い討ちがかかる。
「だから、何をっ!」
どなった声が全てを物語っていた。的を射ていたのだと。
「前の姉様は。前のねぇ」
そして小雪はべそを搔きながらながら扉へと向かって走り出したのだった。追おうとして床に片手を付いた真冬を置き去りにしていく。
「小雪のばかっ」
静かな小屋の中で、辛そうな真冬の口から発せられたその言葉は小さく消えていった。
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