第3話 白金の髪と銀色の髪

「早く捜さないと大変な事になるの、姉様だって分かっているはずなのに」


 小声でそう締めくくったのを聞いた真冬は、待っていましたとばかりに人差し指を小雪の額へと突きつけた。


「そうそうそれ。ねえ小雪」


「はい?」


 きょとんとして見つめる小雪に真冬は詰め寄った。


「そもそも氷河球って何。どこにあるの」


「そ、それは」


 答えられないのは小雪がまだ知らない証。汗をたらたら流す額に、勝ち誇った顔をしてふふんと真冬は小声を漏らしていた。


「だからね。春になって小雪が成人するのを待ちましょうよ」


 百歳、大人になるのと同時に、雪の精としての力が発現する瞬間。小雪は次の春の訪れと共にその歳になる。


 人差し指はそのまま、真冬は目の前で「ねっ」と片目を閉ざす。


「白金の髪の姉様がいるのに」


 ぽつりと小雪は呟いた。


「何か言った?」


「四人しか居ない白金の髪の姉様がここにいるのにっ!」


「力なんて関係ないって。探し物なんだから」


 髪の色は雪の精の力の証。黒い髪、それよりも強い力を持てる者が銀の髪を。そして最高の力をもつと言われている、稀にしか生まれない白金の髪の持ち主の一人こそ、この真冬だった。


「なら、あたしが成人したって同じじゃないですか」


 しまったと言うふうに、苦い顔を真冬が浮かべた。そして沈黙する。


 再び小雪がむすっとしてお椀に口をつけた。


 気まずい沈黙が流れる。それでもちらちらとこちらを伺うのは、そこに思いが表れている証拠だ。応たえるように、真冬はようやく重い口を開いたのだった。


「分かった。こうしましょう」


 妥協案。その一言に小雪がすぐさま反応した。表情が明るくなる。その体が真冬の方へと乗り出される。


 次の言葉を聞くまでは。


「何をすればいいか言って。そうしたらその通りにしてあげる」


 そして硬直した。無理もない。何をすればいいのか小雪自身が分かっていないのだから。一旦停止した思考が頭の中を高速で駆け巡っているよう。しかし、出てくる答えなどないのだろう。再びの沈黙が二人の間に流れていた。


「ねえ、こゆ」


 返答に困ったのを見て笑顔を浮かべようとした真冬が、突然口を押さえて蹲った。


「ぅっ」


「ね、姉様っ」


 驚いた声をあげた小雪が咄嗟に駆け寄ってきて、両手で真冬の背中を必死にさする。そして十数秒。その泣きそうな顔に、真冬はぎこちない笑みを作って応えたのだった。


「だ、大丈夫。雪にあたったのかな」




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