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未有の体内ナノマシンがエネルギー暴走を始めている。それは何を意味するか。
――出力制御するリミッターが解除されているのだ!
自己解除はできない。専門技術者による処置が必要なはずだ……
制御棒を失った原子炉のごとく、ナノマシン暴走はつき進む。指数関数的に増幅するエネルギーのうねりが、シュウのナノマシンを共振させる。
閾値を超えれば爆発するのだ!
透明な隔壁に掌を当てたまま、シュウは茫然と見守るしかない。
劉が異変に気づいた。繋いだ躰を引き離そうとする。
未有は離さない。
「この
未有は顔を傾けてシュウを見た。最後のナノ通信が届く──
(さよなら、景宮クン)
「ミウさん!」
閃光。
凄まじい轟音が聴覚を奪った。
*
どのくらい意識を失くしていたかわからない。瓦礫の中からシュウは這い出した。
顔に引きつりを感じる。手の甲の火傷を見れば、顔も同じように
強靭なガラス壁による隔離で命拾いした。そのガラス壁も砕け落ちている。電気系統がダウンし、エリアには赤色の非常照明が点灯していた。
オレは生きている。いや、生かされている。
崩落したガラス壁の外に出た。
ラボの隔壁も吹き飛び、林立する水槽は破壊されていた。黄色い培養液が床を池にし、水槽の独房から逃れた死体たちが漂っていた。サポートを失った死体が死んでゆくのだ。
死ねない死人たちにとって、この破壊は福音だった。待ちにまった死神がようやく訪れたのだ。大鎌を振り下ろし、偽の生から解放してくれる。
劉の姿はない。未有と共に消滅してしまったのか。
そうではないことに間もなく気づく。
瓦礫の動く音がした。
崩れたエレベーター脇、巨大な破片を押しのけて、筋肉繊維をむき出した太腕が現れた。続いて上半身が続く——
闇の帝王は生きていた。瓦礫をはねのけて立ち上がる。
だが、躰は著しく損傷していた。黒焦げになった顔、胸、四肢。表皮の一部はベロリと剥がれている。瓦礫に擦れ炭化部分が剥げ落ちたのだ。焦げた筋肉模型と化し、血液とリンパ液の滲む肉を晒している。
二本の巨茎は消失していた。大和撫子の覚悟が悪魔を去勢したのだ。
瞼を失った眼球が、赤黒い肉の中からギロリとシュウを捉える。
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