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「やめろ。やめてくれ」無駄とわかる懇願も、せずにはいられない。
妹もこんなふうに──
稲妻のようにフレーズがよぎった。
目の前を閃光が
封じ込めてきた記憶が甦ろうとしているのだ。精神衛生を司るナノマシンが、懸命に禁忌の蓋を押さえている。
──中学生だった妹──
モザイク・ノイズが脳内を駆け廻る。ナノマシンが警報を──悲鳴をあげる。
──佳奈も──犯された。
危険な記憶を封じていた蓋がはじけ飛んだ。
──劉に!
精神の支えが瓦解した。シュウは膝から崩れ落ちた。
閉ざしていた霧が晴れる。押し込めていた映像がやって来る。高校生だった自分の目前で起きた惨劇が、鮮明に再展開する。生々しさに吐き気がこみ上げる。
「思い出したか。あっさりフヌケになるのだな。所詮、ヒトは記憶の奴隷でしかない」
戦意喪失したシュウに興味を無くしたように、劉は生贄の女へ歩み寄る。片手をナノマシン変形で両刃剣に変え、
手首をさすりながら未有は半身を起こす。立ち塞がる男の目を、キッと見返す。
「気の強い女は好みだ」
腕を掴まれかけた瞬間、未有は音速の世界に飛んでいた。
つむじ風が劉の側頭を襲う。弧を描く踵が、こめかみに──
渾身の一撃は、だが、届くことはなかった。
剣から戻った手に足首を掴まれ、猟師に捕らわれた獲物のように吊り下げられていた。
上衣がずり下がり躰の大半が露出する。その僅かな布さえ剥ぎ取られた。
劉は両足首を握り、左右へ開いた。晒された陰部へ大量の唾を吐きかける。
荷物でも扱うように上下を入れ替え、そそり立つ二本の肉矛に未有の股間を落とした。生殖と排泄──異なる機能の両器官を、同時に貫いた。
未有は弓なりに反った。
「女、高貴な血を引くそうだな。犯しがいがあるというものだ」
裸身をかかえ、劉は立ったまま律動を始めた。
だが、女は反応しない。凌辱者が求めるものを与えようとはしない。悲鳴も哀願も涙も。
眉をひそめるこさえなく、毅然と唇を結び、凛とした眼差しを凌辱者に向けていた。
当てが外れた凌辱者は、苛立ちを律動の激しさに変えた。
それでも女は石像であり続ける。石像の瞳は蔑みの色を浮かべている。
屈辱を受けているのは陵辱者の方だった。
このとき、狂暴なエネルギー膨張がシュウの感覚を揺さぶった。
――そんな!
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