P.34 凶宴

「オレも吸収されるということか?」シュウは最も怖ろしい問いを投げた。

「そうするつもりなら、とっくにやっている」ゆっくりこちらを向いた。「ワタシの片腕にならぬか? 景宮」

 意外な言葉に茫然とした。まさか、それが今日までオレを殺さずにいた理由なのか?

「マザーが動く気配は察知していた。あの女が動けば、世界が大きく変わるだろう。人類ヒトなどどうとでもなるが、あの女だけは厄介だ」

 冷たい怒りが、湖面に氷が張るように拡がる。

 この男は、どれだけのものをオレから奪ってきたか。絶望を与え続けたのは、オレの中に同質の憎悪を生み出すためだったのかもしれない。

「ワタシと一緒に来い、景宮。憎むことは愛することよりずっと楽だ」

「断る。見損なうな」

 情のかけらも無い目が、シュウの顔をじっと見る。これが見納めだとでもいうように。「だろうな。そう言うと思った。キミはワタシを失望させ続けた」

 いきなり顔を張られた。そのまま横の壁際に投げ飛ばされる。黄色く色分けされた床に落ちた。目の前にガラス壁が落ちる。黄色いスペースに閉じ込められた。

「そこは緊急隔離の場所だ。壁は強化ガラス。キミには破れん」突き放す口調だ。「オリジナルのままワタシに仕えさせたかったが、無理だな。凶悪な人格の遺伝情報を上書きしてやろう。キミの人格が薄まるが仕方ない。もう時間が無い」

 遮るガラス壁は分厚い。ビクともしない。

「景宮 周で居る間に最後の絶望をくれてやる。キミは、愛したものをみなうしなうのだ」

 このうえ何をする気だ、悪魔め!

 劉は乗ってきたエレベーターを上に戻し、服を脱ぎ始めた。カフスを外しシャツを脱ぐ、無造作に床に放り投げる。下着まで取り裸になった。壮年の見事な肉体美だ。鍛えられた格闘家の筋肉をまとっている。

 エレベーターが再び降りてきた。

 戻った箱が開く。

 シュウは息をのんだ。

 箱の中に、公方くぼう 未有みうが横たわっていた。後ろ手に縛る縄が乳房の上下を廻り、ふくらみを誇張している。

 肌を覆うのは囚人服に似た亜麻色の上衣のみ。腰から下には何も着けていない。はずかしめのためか、剥ぎ取る手間を省くためか。

 反射的に劉の性器に目がいく。既に禍々しい屹立を見せていた。しかも、根元から同じサイズのモノがもう一本生え始める。二又の矛となる。

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