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「まさか……生きているのか?」

「正確に言えば、生かされている。基本的に死体だが、培養ナノマシンが強制代謝している。心臓が止まっていても細胞レベルでは生きている」

 冷たい感覚が体表を這う。死ぬことを許されない死体が並んでいる。強制的に生かされている死体。

「この者たちを分解して必要な遺伝情報を抽出する。ワタシのカラダに取り込むのだ。屈強な兵士たち、凶悪な犯罪者、中には超能力者サイキックもいたし、そうそう、ゼロ課のブーステッドマンもいたな」まるで旧友を懐かしむように言う。

 から有能なDNAを採取して、劉はバージョンアップを繰り返したのだ。新たな戦闘能力を身に付け、若返りさえ果たしながら。

 吸収された者たちには一つの共通点がある。憎悪だ。敵を殲滅しようとする激しい憎悪。憎悪が塗り重ねられ、劉を創った。

 死に切れぬ死者たちの中に見知った顔があった。

 飛嶋とびしま司教……

 壊滅した幸福教団の総帥だ。左胸には手刀に貫かれた陥没がある。シュウと対決し、敗れ去った男。

 彼は、憧れた天の国へ昇ることはなかった。今はただ虚ろな目を見開き、濃い液体の中で宙ぶらりんになっている。もし意識が戻りでもしたら、彼は真の地獄を体験するだろう。 

「飛嶋か──」シュウの視線を追って言う。「アイツはおもしろい能力を持っていた。一秒先の未来をる能力。だがキミは勝った。さすがだな、景宮」

「神に仕えたつもりの者が、に吸収されるとはな。これ以上の皮肉はない」

「アイツを取り込むのはもっと先のことだ。一秒先の未来などつまらん。待つさ、ずっと先の未来を通せるようになるまで。アイツは死んでいるが、まだ成長を続けている。培養ナノマシンのサポートによってな。額に生えた第三の目が膨らんで、機能を向上させている」

 死者を成長させる…… 悪魔の思考は常軌を逸している。

 飛嶋司教と対決した時、額の目はまだ出来上がっておらず、切れ込みにすぎなかった。たしかに今は厚い瞼を持ち上げ、眠たげな半眼でこちらを眺めている。

 新たな目は、どれほど先まで観えるようになったのか。新たな目に、自分の未来はどう映っているのか。

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