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「見事だった。さすがゼロ課の精鋭だ」黒服の裾が翻る。

「オレはゼロ課の問題児だよ」

 黒服はサングラスと目出し帽を投げ捨てた。現れた顔は──

 渡部……

 APSYに拘束されたゼロ課エージェントだ。額の古傷。その半分を覆って、枕木と同じ増幅機アンプリファイアが嵌まっていた。ただし電子眼ではない。ブーステッドマンのとび抜けた動体視力を犠牲にすることはない。あくまで思考をコントロールするためのなのだ。

「久しぶりだな、景宮」

「闘いたくない、と言っても無駄なんだろうな」

「闘いを避けるなら投降しろ。優秀な兵士として歓迎する」

「そのブサイクな機械をかぶせられるのはゴメンだ」

「これは実験でもあった」渡部は言う。「超能力者サイキックとブーステッド、兵士としてどちらが有能か。答は出た。超能力者サイキックの瞬発的な火力は凄まじいが、持続性がない。精神が生むモノは精神の影響下にある。もろい精神はもろい攻撃力しか生まない」口調は棒読みだ。

「ひとつ聞かせてくれ。喋っているのはオマエか、それとも機械か、どっちだ」

 双の目が戸惑うように瞬き、微かな哀しみがよぎった。

「どっちだろうな。オレにも、もうわからなくなった」

「約束が違うだろ。今日の決闘は枕木との一騎打ちのはずだ」

「約束は守った。母子おやこは帰しただろう。上が欲しがっているのは、とりあえずオマエの躰だ」

「よく言うぜ。枕木に殺されるところだった」

「景宮 周が敗けるなんて思っちゃいないさ。万が一敗けて殺されかけたら、枕木を始末する。それがオレの役目だ」

ひどい世界だな」

「その世界を創ったのは、ヒトのさがだ」

 渡部は頭部にへばり付いた機械の腫瘍を指さす。「オレは小型電子頭脳のサポートを受けている。超高速の状況把握と演算により、最も合理的な動作が選択される。攻撃に無駄な動きが無くなるということだ。ブーステッド能力は向上する。言っておくがジャミングに意味はない。通信系は使わないからな。オレには絶対勝てないことがわかったろう。投降しろ」

 シュウの唇は不敵に笑む。「そうかな。絶対勝てないのはオマエの方だ」

 次の瞬間、渡部が高速転移ブーストした。

 シュウも応じるが、正確なフックとボディブローをもらっていた。追うローキックに脚を払われる。

 流れるような攻撃だ。何もできずに倒されていた。教科書どおり。一分いちぶのムダも無い。

 

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