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「このガキ、なんか細工しよったな」枕木が気づいた。

 追跡の防止に〈Wake up!〉のシステムが通信妨害ジャミングしている。それが、同時に、枕木の頭に埋められた電子回路を失調させている。

 枕木の超能力は底上げでしかない。電子回路が増幅しているだけだ。ジャミングでSN比が低下すれば、ノイズに埋もれて通信系の能力が弱まる。精神感応による相手の動き予測が難しくなる。

「どうした。心が読めなくなったのか」

「卑怯者め」

「ジャミングは決闘の条件に含まれている。ルールの内だ」シュウは挑発する。「やっぱりオマエは三流だな。葵のパシリが関の山だったぜ」

「てっめぇ」額に青筋が浮く。ボルテージが上がる。破壊のためのエネルギーが小男の躰に充満する。

 念弾が炸裂して砂柱が上がった。シュウは自在にかわしながら、枕木を誘導し凪沙たちから引き離す。枕木は念弾を撃ち続ける。念撃の精度を上げるため、シュウに近づこうと走り始める。

 至近にどしゃ降りのように着弾した。フルパワーだ。怒りで逆上している。

 舞い上がる砂塵をシュウは利用する。砂幕の陰を逃げる。

 凪沙たちが中間地点を越えた。ベンケイが加速して現れ、二人の背後に盾となった。

 周志が父を見上げ笑顔を見せる。逞しい腕が抱き上げた。小走りにセダンへ急ぐ。

 ――これで大丈夫だ。

 枕木が前方に居る。肩で息をしている。の使い過ぎだ。

 もう限界だろう。だが、取り憑かれたような目は殺気でギラついたままだ。

 脳を支配する増幅機アンプリファイアから興奮剤が与えられている。興奮状態が命の心配などさせない。憎悪の対象しか眼中にない。

 すばらしい技術じゃないか。これが人類ヒトだ。憎悪を搔き立てることに関してなら、人類ヒトは天才だ。

 憐れに思った。枕木は憎悪にまみれたまま死んでゆくのだ。

「ガキぃ! 逃げずに向かってこいやぁ。ワシの恐ろしさ見せたる。覚悟せえッ!」

 アロハから出た腕、バミューダから伸びる脚にも血管が浮く。首筋、顔に青筋が膨れあがる。

 それ以上やれば死ぬ──そう言ったところで聞くはずもなかった。

 凄まじい力場が枕木の両側に展開した。包むように念動波を浴びせるつもりだ。

 逃げはしないさ。こちらも決めるつもりだ。

 シュウは誘導していたのだ、この場所へ。砂にうっすら覆われているが、枕木とシュウを繋ぐラインはアスファルト上にあった。先に立つ灯台へ続く一本道だ。


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