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 枕木は動かない。代わりにワンボックスの扉がスライドした。

 黒服の男が車を出た。目出し帽にサングラス。顔をすっぽり隠している。

 続いて二人降りてくる。トレーナー姿の女性と半ズボンの幼児。女性は幼児の手をしっかり握っている。

 凪沙と周志だ。視野をズームアップして確認した。

 子供の様子に胸が締めつけられる。口を引き結び、じっと前を見つめている。

 大きくなった。つらい思いをしただろう。

(ベンケイ、右手から迂回しろ。オレは逆方向へ誘う)ナノ通信を使う。

(了解。アニキ、気をつけてくれ)

 こちらの車の位置は把握されているだろうが、とりあえず人質を乗せねばならない。

「姿を見せろ、景宮!」枕木が立ち上がり、座っていた椅子を蹴とばした。

 姿を見せれば念動力の餌食だ。のフォーカスが間に合わないよう動き回らねばならない。

「松林に向けて人質を歩かせろ。中間地点を越えたら、オレは出ていく」

 黒服に背中を押され、母子おやこは歩きだした。子供の歩幅に合わせた、じれったいほどの歩みだ。

 黒服は銃を持っているだろう。母子おやこの背に発砲するかもしれない。

 余計な事は考えるな──自分に言い聞かせる──目の前の闘いに集中しろ。二人はベンケイに任せればいい。

 枕木に申し合わせを守る気などなかった。中間点に差しかかる前に攻撃を開始した。

 感じる。周囲に形成される力場を。

 周りに立つ松の幹が、次つぎ真っ二つに裂けた。

 こちらの声で居場所の見当をつけ、念動波を放ったのだ。数撃ちゃ当たる式に。

 生木の裂ける音が近づく。

 シュウがとび退くと同時に、背にしていた太幹が裂けた。

「そこに居たか。さあ、いくでぇ!」

 枕木が、深呼吸のように念動力を溜める。

 ロックオンされたらお終いだ。シュウは高速転移ブーストする。

 砂上走は通常より15%速度低下する。ジャンプ力も同様だ。

 それでも足をとられながら走る。加減速をくり返しジグザグに動く。

 一瞬前に居た場所に、念弾が次つぎ撃ち込まれる。大きく砂塵が舞った。

 逆方向へ迂回しながら、凪沙たちに目をやる。二人は前だけを見つめ、待つセダンに向けひたすら歩を進める。

 攻撃の第一波が止んだ。枕木が肩で息をしている。

 シュウも息を整える。

 高藤との精神交感で身に付いた、超常感覚らしきものが役立っている。第六感的なものが鋭くなっている。サイキックが放つを感じ取れる。その強弱、方向、形を──

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