P.21 追跡者②
広大無辺の空間を雲が覆い尽くしている。柔らかな光が充ちている。
呼ぶ声は四方へ飛び去り、彼方に消えてゆく。
応えてくれ――そう呼びかけるだけだ。
応えは無い。それでも、こちらを窺う視線を感じる。じっと心の奥底まで見透かすように、こちらを凝視している。
応えてくれ──繰り返すことしかできない。
やがて、興味を失くしたように視線が遠のく。
去っていった…… 雲の空間には、もう誰も居なくなった。
トランス状態から離脱する。シュウは現し世に目を開いた。
トランスは入神状態とも呼ばれる。雲がたなびく空間は、何処とも知れないアチラの世界だ。
意識が境界を戻り、コチラ側に定着するのを待つ。
こんなことができるのは、稀代の超能力者――高藤と精神交感を繰り返した成果だ。
リクライニングチェアから身を起こした。
今日も呼びかけに応えはなかった。
毎日一時間ほど呼びかけを続けている。それ以上のリンクは難しい。
最初の頃は、無人の野で虚しく声をあげているだけだった。が、少し前から呼ぶ声を聞きつけ、こっそり近づいてこちらを窺う気配がある。
呼びかけを始めて半月。このまま無視され続けるか、接触があるのか、見当もつかない。
カーテンに隙間をつくると、窓のむこうに湾岸の倉庫群が見える。午後の光が海面に踊っている。ここはコクマーから提供された、管理棟に付属するプレハブだ。
(アニキ――)ナノ通信。ベンケイが近くに来ている。
まもなく階段を踏む音がして、黒トレーナーの巨躯がドアを開いた。
野球帽を目深にかぶった顔がシュウを見て綻ぶ。「びっくりしたっスよ。行ったきり帰って来ないから。まさかAPSYの刺客に襲われたなんて」
襲撃から一週間が経つ。詳細はコクマーに聞いたようだ。
「近々、もう一度やり合うことになる。枕木はオレのニオイを嗅ぎ分けるらしい」鉄兜を接合され、能力を増幅された男の説明をした。
「
「その前にオレを殺す気だ。恨み骨髄だからな」
「お礼参りかよ。上等だ。返り討ちにしてやらあ」
「助太刀に来たのか?」
「モチ。オレとアニキが組めば負けやしない。ところで、サイキックからの応答はどうです?」
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