P.10

 自壊タイマーを30分後にセットして、ジョーカーに別れを告げた。じきにナノ通信可能距離を超える。

 30分後、もしくは何らかの接触を感知した時点で、しょぼい火花を上げてジョーカーは黒焦げになる。それを見たパイロットたちは地団駄踏むだろう。

 前方に物流施設群が見えてきた。地上10階以上、縦に伸びる巨大倉庫棟が立ち並ぶ。直方体建築の横にランプウェイの螺旋がデコレーションのようにくっついている。トラックが上下階を走行するための螺旋走路だ。

「あそこで降りるか」

「高度をギリギリまで下げます」ベンケイはスティックを押し込んだ。

 減速した機体が建物の真上を掠める。

 ドアを開きシュウは跳んだ。

 自動操縦オートパイロットに切り替えた後、ベンケイも続く。

 二人のブーステッドマンは屋上にバウンドして転がった。

 無人となったヘリは再び高度を上げ、西へ飛び去ってゆく。

「短い社長業だった。やっぱオレには向いてねえや」

 小さくなる機影を見送りながら、ベンケイはボソリと呟いた。


     *

 

 テレビジョンでをやっていた。ドラマではない。本日白昼の実録映像だ。

 大通りで、車両同士が衝突したり急停車したりする。

 交差点のど真ん中に、いきなり男が出現した。そして消え、また別のポイントに現れる。超高速での動きを繰り返している。

 四方から包囲しているのは機動警察隊。前線に立つのは、肥大した上半身をもつサイボーグ警官たちだ。逃げようとする男に電撃警棒を叩きつける。

 それでも二、三人が弾きとばされ、倒される。

 無類の強さを示す逃亡者は、ブーステッドだ。

 電撃網が使われた。裾の各所に小型ロケットの付いたワイヤーネットが、巻き込むように逃亡者を捕らえた。もがくが逃れられない。

 閃光。高圧電流が網目をはしる。

 網の中で動かぬ塊となり、逃亡者の望みはついえた。

 護送車が横づけされる。

 高圧電撃でも死なない逃亡者は、ストレッチャーに縛りつけられ、バックドアから積み込まれた。

 遠巻きにようすを窺う野次馬のたちの輪から、一斉に拍手が起こった──


 店内の大画面で映像が終わる。

「怖いよね」見ていたOL風が呟くように言う。

「会社出たら真っ直ぐ帰宅。外飲みなんて久しぶりだよ」連れの女性がグラスを掲げた。

 大箱の居酒屋チェーン店。降り出した雨で客足は鈍い。広い店内は四分ほどの入りだ。


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