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返事もせずベンケイは受話器を戻す。
「上にヘリポートがあります。ここから直通で行ける」部屋の壁まで進む。
シュウも続いた。
壁紙模様にまぎれたドアをスライドさせると、急勾配の階段が現れた。
「用意がいいんだな」
「アニキと修羅場をくぐり抜けてきた。出口を一つにしておくほどマヌケじゃないっスよ」
屋上へ出ると、強い風が服をはためかせた。
Hマーク上に小型ヘリが待機している。
運転席に向かうシュウをベンケイが制した。「オレが飛ばします。ライセンス持ってます」
メインブレードが回転し、機体が浮き上がる。
離陸と同時に、斜め後方から接近するヘリ一機を視認した。
「来たな。都警のやつじゃない。米軍機だ。ネオアパッチ!」
「くそう、撃墜する気か」ベンケイはスティックを大きく切る。
プライベート・ヘリでは逃げきれない。性能が違い過ぎる。しかも相手はチェーン・ガンやロケット弾を装備している。
「市街では手を出さない。あわてるな。低空でビルすれすれに飛べ」
「了解」
「この機は
「もちろん。どうする気です」
「途中で飛び降りる。機体は大阪湾まで飛ばして棄てる」
「オーケー。久しぶりの緊張感だぜ」
シュウは葉巻型小型ロボ〈ジョーカー〉を取り出す。体内ナノマシンとリンクする万能アイテムだ。
窓を開けて放り投げ、起動した。
ジョーカーの背から透明なプロペラが現れ、追尾するネオアパッチに向いて飛んだ。
シュウの視野にサブウインドウが開く。ジョーカーのレンズを通した映像が送信されてくる。
ジョーカーは全速後退で接触の衝撃を抑え、ネオアパッチのフロントガラスにへばり付いた。
妙な付着物にパイロット二人がのけぞる。
ジョーカーはスクリーンを投影した。パイロットに向けメッセージを表示する──
〈追跡を中止し撤退せよ。応じなければ、この付着物は爆発する。3時方向へ旋回すれば了承と見なす。猶予は10秒〉
ジョーカーに自壊機能はあるが、あくまで証拠隠滅のためだ。発動したところでガラスには傷も付かない。ブラフだ。
パイロット同士がわめき合う。付着物の小ささに、案の定ブラフかと疑っている。
スクリーン表示の〈10〉が数字を減らし始めた。
ゼロ課の装備品は得体が知れない。それが余計に恐怖を積み上げる。
こちらの身辺調査書に目を通していれば、恐怖は倍加するだろう。そこにはこう記されていたはずだ。
〈景宮 周。この男は何をしでかすかわからない〉
数字が〈3〉に減った時、ネオアパッチは方向転換した。
賭けに勝った。
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