10.魔法使いの話、アンカー宅にて3
「日記?」とテオが繰り返す。
「戦時中の記録として、ある男が残した日記だ。その日記には、こう書いてあった。『双子の女の子が戦火を逃れて村にやって来た。持ち物は着ているみすぼらしい洋服だけ、言葉はたどたどしい。人畜無害な子どもだったから、保護した。しかしその二人が現れてから』……」
ラファエルは一度口を閉じた。またビアンカに怒られることを懸念しているのだろう。
「……『およそ人間では不可能な不可解な死を遂げる者が増加した』。村は戦禍を免れたもののほぼ壊滅状態。男は恐ろしくなって、村から逃げたそうだ」
「それは、どこの国の出来事ですか? 俺は聞いたことがありませんが」
「遠い東の国のことだ」
テオが「そんな国の日記まで……」と驚いた声でつぶやいた。
また恐ろしい光景を想像してしまったソニアは、気分の悪さをごまかすために、もう一杯お茶を注いでグイッと飲んだ。それでも気がまぎれず、口いっぱいにマジパンを押し込んで、食べることに集中した。
「この日記を読んだ時、俺はこの双子が魔法使いなんじゃねえかと推測した、子どもに姿を変えた」
「敵国が村を壊滅させようとしたということですか?」
「ああ。しかもだ。この日記の書き手の男は、魔法使いなんだ。村で唯一の魔法使いで、人前で魔法を使ったこともなかったから、誰にもバレてなかったらしい。ただ、戦争が始まってからは、常に守護の魔法をまとっていた。だから双子に狙われなかったんだろうし、双子は男の魔法の気配に気づいて、男を攻撃するのは避けたんだろうな。自分たちの正体がバレると面倒だから」
「つまりその双子は、何らかの方法で魔法の気配を隠して、男を欺いていたってことですか?」とテオ。
ラファエルは「おそらく」と答えた。
「身内を褒めるみたいですけど、すごい推察ですよね。しかも実際に、魔法の気配を隠すものを発見したんですから」
ビアンカは肩をすくめた。
「本当にそうですね。それで、気配を隠すものを発見したのは、著書によればご自分とご家族のですよね?」
「ああ。俺とエルザ姉さんとエゴン父さんのな」
「著書によれば、全員が共通して、自然物だったってことですよね」
「そうだ。俺は黒曜石、エルザは銅、父さんはダイヤモンドだ。だから俺の本では、ひとまずの結論として、自然物が魔法の気配を隠す、とした」
ラファエルはチラッと黙って話を聞いていたマルチナの方を見た。マルチナは唇をかみしめて、ラファエルを見つめ返す。
「ただ、この双子のことを考えると、そうとも言えない。この双子は常に手を繋いでいて、持っているものと言えば、さっき話した通り、洋服くらいだったらしいからな」
常に手を繋いでいるという点は、ソニアとマルチナと重なる。しかしこの恐ろしい双子と共通点があることは少しも嬉しくなかった。
「本には自分の実証に基づく結論でしかなかったが、お前たちが来たことによって、双子に対して再考の必要性が出た。だから、紙とペンが必要になったんだ」
そう言われ、ソニアはもうずっと前から、ラファエルの手は止まっていることに気が付いた。話に熱中してくれているのだろう。ラファエルは思ったよりも良い人なのかもしれない、とソニアは思った。
「わたしたちが、双子に次いで、魔法使いの魔法の気配を隠す対象が人間かもしれないという例になるってことですか?」とマルチナ。
「そういうことになる。今まで聞いた話だと、お前らは一緒にいることで魔法の気配が隠れるんだろう。可能性としては十分に考えられる。ただ、俺はこの結論は避けたいと思ってる」
「なぜですか?」とテオ。
「人間側に自由がないからだ。魔法の気配を消すため人間として、魔法使いにずっとついてることになるだろ。そんな不自由な生活、誰が望む? ましてや魔法使いが最低な性格だったら。たまったもんじゃないだろ」
ラファエルの言葉に、マルチナの表情が曇った。
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