021.
病院に着いた僕は総合案内へと向かった。
そこで聞いたことは救急車が到着した後は救急医療センターの方へ行くということでそちらに行く。その前にスマホを見て電源を切る。
救急医療センターの中に入って神林先生を探した。
神林先生は若い女性と深刻な顔をして話していた。
「わかりました。私の方からも五十嵐社長に報告していますので、会社の方は心配しないでください」
何を話しているのか解らなかったが神林先生と話している人が松井の姉ではないかと思った。
スッと背筋を伸ばし思っていた以上に身長のある女性だった。
松井とは目が似ているなぁと思った。
入学式の時に保護者の方たちと会っただけなので僕はあまり顔を覚えていなかった。
「すみません。松井叶羽くんのお姉さんでよろしいですか?」
「はい、私が姉の松井美桜です。連絡ありがとうございました。今、叶羽は怪我の処置と簡易的な検査しているので終わったら、病院の先生から説明があると思います。今待っている間に神林先生から学校で叶羽が怪我をした時の様子をお聞きしていました」
「そうですか。僕も後から話を聞いたので詳しいことは把握していません。なのでお話をできたらと思いまして、一緒によろしいでしょうか?」
「私の方はいいですよ。私も話を聞きたいです」
待合所の椅子に座って話し出した。
神林先生が近くの自動販売機でコーヒーを買ってきた。
しかし、神林先生は何故か松井のお姉さんの好みを知っていてお姉さんにはお茶を買ってきていた。
何の迷いもなくお茶を手渡していた。
その光景を見ていた僕は少しばかり不思議なことに思えたけれど今は関係のないことだ。
「私が知っているのは松井くんが三階の階段近くで誰かと揉めていて激しく言い合って転落したということです。私が近くに行った時には数人の生徒がいたのですが、ただ一人女子生徒が『大丈夫?』とか話しかけていたみたいですけど何を話していたのかまでは分かりません。その後は私から指示をして石川先生に知らせることを頼みました。それ以外にも頼んだ生徒は少人数で済ませ他の生徒は逆に近づかないようにしたので何があったかは知らないと思います。ちょうど授業も始まる時間だったのでその場所では私だけになりました」
「そうなると僕の所に連絡に来てくれた彼女が何かを知っているかの所為がありますね」
「その彼女は誰なんですか?」
「三年生の
「奥村、花耶さん…」
松井さんは何かを考えるように呟いていた。
「何故こんなことになったのかは当事者の松井本人に聞かないと分からないことだらけですね」
「私は途中のことしか知らないですし、他の生徒が話していたことを耳にしただけなので真偽まではどうかは分かりません。ただ誰かと言い争っていたようだとしか聞いていません」
「何か証拠となるようなものでもあればいいですけどね、校内ですからそういう物はないです。あとは本人から話してもらうしかないです」
「そういえば…、叶羽の荷物が学校にありますよね。後で取りに行かなければ」
「あっ、それでしたら松井の状況がわかりましたら一度、学校へ戻ります。その時に松井の荷物は預かります。次に病院へ来るとき持ってきます」
「よろしくお願いします」
松井のお姉さんは丁寧な口調だった。
お姉さんだから僕よりも年下、なんだよな?と考えてしまった。美人だし生徒の家族じゃなかったら彼女になって欲しいくらいだ。
暫くの間話していると松井のお姉さんは看護師に呼ばれた。
松井のお姉さんは席から立ち上がり、看護師に案内されて部屋に入っていった。
「すいません、一件だけ電話してきます」
「あ、はい」
神林先生に話を聞こうと思ったけれど、席から立って離れた場所で通話していた。
神林先生から渡されたコーヒーを飲みながら周囲を見回した。
救急センター特有の喧騒があって神林先生が誰かに何を話しているのかは分からなかった。
けれど学校で普段見ている神林先生とはちょっと雰囲気が違っていた。
担架に乗せられ救急車に運ばれていく松井を思い出していた。
見た目ではあまり怪我をしているようには見えなかったが僕があの時、駆け付けて行ったら松井はすでに意識がなかった。
もしかしたら見えない部分で大きな怪我、骨折とかしているかもしれない。
説明がまだ何もない
「お待たせしました。私の方の用事は済んだのでお互いの情報を交換しましょう」
「そうですね。僕としては松井の怪我の状態も全く分からないので神林先生が見たことを聞かせてください」
「私が話せることは多くないですよ。松井くんが転落した階段から離れた場所にいたんでわからないことが多いですけど」
「それでも僕より知っていることはありますよね」
「かなり大きな声で口論していたみたいで、近くにいた他の生徒たちが偶然見かけた私に伝えてくれてあの場所に行ったら何かにぶつかる音がしたのでその方向を見たら松井くんが倒れていたという状態だった。すぐに駆け寄ってくれた奥村くんが松井くんに話しかけていたようだけど私は聞こえていなかった。その後は私から指示をして石川先生に知らせるように頼んだんだ。その時には口論していたという相手生徒は誰も来ませんでした」
「僕があそこに行った時には数人の生徒がいましたけどどの生徒も遠巻きに見ているだけだった。僕は一旦、職員室に戻って松井の保護者に連絡していました」
「もう授業開始時間になるところでしたから私も関係のない生徒には教室に戻るように言いましたから」
お互いにその場面で目にしたこと、自分がした行動を話していった。
「うーん、あと何か知っていそうなのは三年生の奥村花耶さんだけど職員室へ僕に知らせた時にもうすぐ授業だからと言って教室へ行かせたんだ。何か言いたそうな感じだったけれど吹っ切ったように教室に戻っていたんだよな」
「それじゃ、改めて何か聞くとすれば奥村くんか」
「そうですね」
僕と神林先生はある程度の様子は分かったので互いに頷いた。
他にもいろいろ話していると松井のお姉さんが部屋から出てきたのを見つけて立ち上がった。
「お姉さん、どうでしたか?」
「入院することになりました。簡易的にした検査では左足は骨折まではいかなかったけれどヒビが入っていました。背中の打撲、左腕に強く掴まれた跡も残っていたそうです。頭部に異常はなかったようですが当分の間は安静にするようにと言われました。まだ目を覚まさないので何があるか分からないそうです。目を覚ましたら詳しい検査をすることになるので今の状態では入院もいつまでになるか…」
「そうですか…これから入院手続きやら準備もありますから。落ち着いてから松井のお見舞いに来させていただきます。今日はこれで失礼します」
「あっ、はい。ありがとうございます。ご心配をおかけしてすみませんでした。何かありましたら石川先生に連絡します」
「はい、よろしくお願いします」
僕は松井のお姉さんに会釈をした。
「神林先生、学校に戻るのであれば僕の車で送ますよ?」
「ありがとうございます。でも別の用事を済ませてから学校に戻りますので石川先生、先に戻ってください」
「わかりました。それではお先に失礼します」
神林先生に確認してその場を後にした。
病院を出て学校に戻った僕は校長に報告をした。
職員室に戻り僕は自分の席に座った。
「石川先生か神林先生いらっしゃいますか?」
「はーい」
誰かに呼ばれて僕は席から立ち上がった。
職員室の入口を見ると三年生の奥村花耶だった。
「石川先生戻ったんですね、よかった。病院へ行った後の事とかを聞きたくて…」
「うーん、個人情報ってこともあるから言えないことあるなぁ。どっちにしてもまだ彼の意識が戻っていないからまだお見舞いは無理だ」
「そうですか…了解です」
奥村は案外あっさりと引き下がった。
もっといろいろ聞いてくるかと思ったけれど少し拍子抜けしてしまった。
あなたなんて知らない おーろら @pukurora-x
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。あなたなんて知らないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます