020. 事件は突然に…(2)

「「「きゃぁー」」」

 何人からの女子生徒の叫ぶ声が聞こえた。

 俺は階段下に落ち倒れた。

 あちこちぶつけながら階段から落ちたみたいで身体中が痛い。


「うぅぅ…」

「大丈夫ですか!?」

 先程の声と同じ声の人が俺に話しかけてきた。


「うぅ、スマホ…」

「スマホって、これのこと?」

 陸哉と葵は俺が階段から落ちたのを見て、驚いた所為で動けなかったようだ。

 陸哉と葵の立っている位置からは見えないように彼女は俺に持っていたスマホを見せた。


「あぁ。スマホ、俺の…」

 彼女からスマホを受け取ろうと右手を出したが上がらずにそのまま身体の上に右手を落とした。


「あうっ!」

「大丈夫?!今先生に連絡しているし、救急車も呼んだからこれ以上は動かないで。さっきのあの二人にこのスマホは気づかれないようにすればいいんだよね?」

 もう返事をすることも辛くなっていた俺は小さく頷いた。

 それだけ反応するとそのまま俺の視界は暗くなった。というか意識を失くした。


「あれ?この子の顔、どっかで似た顔を見たことがある気がするんだけど…。まぁ、いいか。ここまで録画してたから多分、重要なんだろうなぁ。預かっておこう」

 独り言を話していた私はそのまま自分のポケットにしまった。

 彼の友だちであるはずの二人はこちらに近づいてこなかった。


「な、なんで?!叶羽が落ちたのは私の所為せいじゃない!」

「俺の所為でもない!ただ話をしていて揉み合いになって階段から落ちたんだ」

 自分がしたことを反省もしないで正当化するみたいに言い訳している。

 彼のことが心配じゃないのかな。彼の知り合いみたいだけどどうでもいい。


「怪我した生徒は何処?!」

 先生らしき声が私の耳元に届いた。

 私は手を挙げて先生を誘導した。


「彼の名前と所属クラスは?」

「えっと、すいません。私は彼が階段から落ちた時にすぐ近くに居ただけなのでわかりません。でもその前に彼は友だち、と言えるのかは分りませんがその人たちと話していた中で”トワ”って言われてました」

 駆け付けた先生は何かを考えているようで小さな声で呟いた。


「トワ、トワ。あぁ、一年Cクラスの松井まつい叶羽とわか。担任の石川先生に連絡を。君、石川先生に連絡を頼めるかな?」

「あ、はい。わかりました。石川先生ですね」

 私は来てくれた先生に頼まれたように石川先生を探して職員室に駆け込んだ。


「はぁ、はぁ。失礼、します!石川先生いらっしゃいますか??!」

「おぅ!そんなに慌ててどうした?」

 穏やかな学校生活においてそんな場面を見るようなことは今までなかったようで、石川先生はニッコリ笑って答えた。


「石川先生、のんびりしている場合じゃないです!さっき先生のクラスの男子生徒が階段から落ちて怪我したんです」

「何処でだ?救急車は?生徒の名前は?」

「石川先生、ちょっと落ち着いてください。えっとまずは生徒の名前は神林かんばやし先生が確認して松井叶羽くんという生徒です。救急車はもう呼びました。松井くんが怪我した場所は特別教室棟の西側の二階階段近くです!」

 私は石川先生に聞かれるまま答えた。


「ありがとう!わかった。君は教室に戻りなさい。もうすぐ授業が始まる」

「あ、はい」

 私はその後の彼のことが気になっていたけれど次の授業が始まるし、仕方なく彼のことを知るのを諦めた。授業後か明日になってから聞けばいいかと思った。

 石川先生は私からの話を聞くと職員室を飛び出して行った。




 僕はまず怪我した松井叶羽の状態を知るために女子生徒が教えてくれた場所に急いで向かった。

 先に来ていた神林先生が付き添っていてくれた。


「神林先生!松井の様子は?」

「あっ、石川先生。今救急車が来るのを待っているんですが意識がないです。どうやら階段から落ちた時にあちこちぶつけたようです。最初は二言、三言傍にいてくれた女子生徒と話せていたみたいですけど、すぐに意識を失くしたみたいなんです」

「そうですか。神林先生は様子が分かっているようなのでそのまま病院に付き添ってください。僕は職員室に戻って彼の保護者に連絡入れます。搬送される病院が判ったら僕にも連絡ください」

「わかりました。後で連絡します」

「お願いします!」

 僕は神林先生に後のことをお願いして職員室に戻った。

 職員室の僕の机に置いてある生徒個別票のファイルを取った。

 ファイルを開き、松井叶羽の個別票を見た。

 緊急連絡先を見るとお姉さんで会社の電話番号だった。

 僕はその番号を見ながら電話を掛けた。


「五十嵐クリエイティブ株式会社、受付係の結城ゆうき瑠奈るなです。ご用件をお伺いいたします」

「お世話になっております、私はそちらにお勤めの松井美桜さんの弟さんが通っている九玄坂高校の担任をしている石川いしかわ洋平ようへいと申します。至急、松井さんに連絡したいことがございます。お取次ぎお願いします」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 電話から保留音グリーンスリーブスが流れてくる。曲調がゆっくりしている所為せいなのか少しイライラしてしまう。


「お待たせ致しました。私が松井美桜です」

「松井叶羽くんのお姉さんでよろしいですか?」

「はい、そうです」

「私は叶羽くんの通う九玄坂高校で担任をしている石川洋平と申します。お仕事中にお電話して申し訳ございません。つい先程、叶羽くんが学校で階段から転落しまして怪我をしました。今救急車を呼んで病院へ運んでもらうところです。これから救急の方と運ぶ病院の話すので決定したらもう一度電話をします。お姉さんの携帯電話の番号をお聞きしてよろしいですか?」

「あっ、はい。わかりました。この後すぐ会社の社長に連絡してから病院に向かいますのでお願いします」

 僕は松井のお姉さんから番号を聞き電話を切った。

 自分のスマホを手に持ち、お姉さんの電話番号を登録した。

 メモは個別票のファイルに挟んで仕舞った。

 席から立ち上がりもう一度松井が転落した場所に走った。

 もう救急車が来ているはずだ。運ばれる病院の名前を聞かなければならない。

 担架に乗せられ運ばれる松井の横に神林先生がいた。


「神林先生!運ぶ病院はどうなりました?」

「救急車に行ってから決定しますけど一応五十嵐総合病院になりそうです」

 神林先生と一緒に僕も救急車まで付き添った。

 救急車では別の隊員が病院に連絡をしていた。


「受け入れ先は五十嵐総合病院です。付き添う方は一緒に乗ってください」

「僕は松井の保護者に連絡と校長にも報告しますので付き添いは神林先生お願いします」

 僕がそれだけ言うと神林先生は頷き、救急車に乗り込んだ。


「先程お電話差し上げた九玄坂高校の石川洋平です。受け入れ先の病院が決まりました。五十嵐総合病院です。よろしくお願いします」

「わかりました、ありがとうございます。ではこれから病院に向かいます」

「はい、わかりました。僕も後から病院に行きます」

「はい」

 電話を切り僕はまた職員室の方に戻るように走った。

 校長室の前で止まった。


 ”コンコン”

 校長室の扉を叩いた。


「はい、どうぞ」

「失礼します」

 僕は校長室の中に入った。


「校長、報告があります」

「おや、石川先生どうなさったのですか?」

「詳細は僕にはまだわからないので答えられませんがクラス担任をしている生徒が階段から転落して怪我しました。その生徒はうちのクラスの松井叶羽です。彼の保護者には連絡して病院に向かってもらっています。学校から病院には神林先生に付き添ってもらっています。僕もこれから病院へ行ってきます」

「わかりました。病院は何処ですか?」

「五十嵐総合病院です。それでは行きます」

「はい、気を付けて。後のことは任せてください」

 校長先生は頷いた。

 校長室から出て職員室に入った僕は自分の机の前に立った。机の下に置いた通勤バックを持ち上げた。バックの中にスマホを入れ車の鍵があるのを確認してからバックを持った。

 周りの先生は不思議に思って何か聞こうとしているが僕が急いでいることで聞くのを躊躇ためらっていた。

 その様子を見てはいたが質問には答えたい。

 時間がないのでそのままにして僕は職員室を出た。

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