第1話

「〇〇、逃げろーー!」

「ごめんなさい湊くん」

「おい〇〇!ダメだー!」


「…と、……なと、……みなと!」

「ん?」

「大丈夫か?!」


悪夢にうなされていた湊を現実に引き戻したのは同じ寮の部屋になった樹だった。


「まだ、あの時の夢を見るのか?」

「……。お前は先に準備しててくれ、入学式今日だろ?学園長の所にも行かないといけないしな。」

「あっ!やべぇそうだった!急がねえと」


そう言うと樹は思い出したのか慌てて準備をしだした。

単純だけど良い奴だよな…。

湊は親友の焦る背中を見ながら心の中で呟いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


入学式が始まる前に湊と樹は学園長室を訪れていた。

コンコンコン


「失礼します。」

「入りたまえ」


扉が開かれると湊たちを見て学園長は慌てだした。


「こ、これは第1使徒様!?な、何かご不満な点でもありましたでしょうか!?」

「いや、不満な点は特には、」

「そ、そうでしたか。では、私が貴方様を失礼ながらお呼びした訳をはなし」

「いや、待て」

「は、はひ?!」


急に声音を変えた湊に学園長は汗だくになった。世の中では使徒を怒らせたり、使徒に対して無礼をすると社会で暮らして行けなくなるという噂が流れている。(実際どうなのかは別として)そのため、この時の学園長の心はどんどんすり減らされて言った。


「1つ非常に不満な点があった。」

「そ、その不満というのは……」ゴクリ

「……が、、、こと、だ」ボソッ

「使徒様、もう少し大きな声で申して頂けませんでしょうか。」


震えている学園長に代わって樹が再度言うように促す。


「……唯華が居ないことだ!!」


・・・・・・・・・・は?

と、恐らくここに居る学園長は思ったことだろう。それを気にした様子もなく湊は続ける


「だから、妻がこの学園じゃないことが不満なんだ!」


「ま、まさかその奥様というのは、第2使徒様の事でしょうか。」

「そうに決まってる。他に誰がいるというんだ?」

「い、いえ。飛んだご無礼を致しました。お許しください。」

「いや、すまない。少し取り乱しただけだ。それと、ここではあなたの方が立場が高いです。なので敬語は無しでお願いします。」

「い、いやしかし。」

「はぁ、それとも私の言葉を守れぬと?」


湊の言葉に周りの空気がピリピリと音を上げだした。これには学園長も


「承知しまし、あ、わ、分かった。」


と、答えるしかなかろう。


そうこうしているうちに学園長は落ち着いてきたのか、本来の目的を話し始めた。


「実は君たちには入学試験は受けてもらってないが、というか必要ないが、クラス分け試験が入学してすぐ、明日にでも行われる予定だ。その事を先に伝え忘れてたとおもってのぉ。」


学園長の言葉に樹はウキウキ、湊はハラハラしていた。

というのも、樹は魔術を使うと周囲の地形が崩れるのが分かりきっているからだ。

樹はAランクで、序列も109位となっているが、手加減というものが全くの素人で、今回の学園入学中に手加減を学ばせたいと言うのが日本魔術師協会の意見なのだった。




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