ケイの3夜目 俺って偽善者?

「なんであんなこと言われたんだろ・・・?」俺はそう悩んでいた。

 その日は月一で活動をやっているボランティアに参加する日だったのだ。俺の両親が心を清めるための修行として、半強制的に参加させられてる。今回のボランティア内容は、知的・発達障害を持っている児童が参加するという、県内の特別支援学校が合同で行っているスポーツフェスティバルのお手伝いだ。そのスポーツフェスティバルの会場は、最近新しく作られた大きい体育館がある「猿川市立東部地区公民館さるがわしとうぶちくこうみんかん」だった。地域の子供たちは「ブチク」なんて言っているほど親しみがある公民館。前にも体育館はあったが老朽化もあり、さらに大きい体育館に建て直されたのだった。今まで「ブチク」に入ったことがないので胸が高鳴っている。

 いざ、体育館に入ると、シップみたいな香りが少し立ち込めていた。どうやら前が使ってた団体は女子バレーボールチームだったようだ。バレーチームとすれ違った時、なんか、ホランに似てる人とすれ違った気がする。気のせいだといいんだけど・・・ 

 俺たちは本番一時間前に来て体育館の飾り付けをした。頑張ってこって飾ったの、気に入ってくれるかな・・・?

 スポーツフェスティバル本番、まるで運動会を見ているようで、ほほえましい。そして、いろんな競技のあらゆる準備をしてみんなが楽しんでもらえるようにてきぱきと動いた。そして、競技の準備中、俺と同じぐらいの人が来た。

 A  「あの。」

 ケイ 「何でしょうか?」

 A  「そんなに積極的にボランティアするってことは君、だね。」

 ケイ 「えっ?」

 そう言われて背筋が凍った。こっちだって善意でやってるのに

 ケイ 「何でですか?」

 A  「そんなこともわからないのかよ。そうか、君は僕と違ってバカなんだな。時間を有効活用しないこの馬鹿が。」

 ケイ 「えぇっと・・・」

 俺がまごついていると、

 Aの母「ちょっと、あんた、どこに行ってたのよ~!」

 その人の両親がやってきた。

 A  「あ、ママ、パパ。この人とてもバカだよ。ちゃんと時間使えないやつ。」

 俺がだって?!そうキレそうになった時、

 Aの父「お前、なんてこと言ってんだ!すいません、この子はこういう性格なので、おおらかに見てあげてください。本当にすみませんでした。ほら!お前も謝りなさい!」

 A  「嫌だね。だって僕、何も間違えてなんかないもん。」

 Aの母「・・・すみません。失礼しました!」

 そう言い放った時そいつを引っ張るかのようにその両親は行ってしまった。スポーツフェスティバルは無事に終わったけれど、なんかモヤモヤする。

 家に帰ってベッドに寝転がった。

「俺って本当は偽善者なのかな・・・」

 そう思った俺は、またあの場所に行って話を聞いてもらうことにした。

                 ☾

 心のコンパについた俺はスタッフに「ランダム」で頼んだ。そして6号室に案内された。

「お、はじめまして。おれはトオル。」

 最初に声をかけてくれは人はトオルさんというらしい。そして今年で大学卒業するハズキさん、看護師をやっているカズエさんが座っていた。

 ケイ  「初めまして、俺はケイって言います。俺の家はお寺をしていて、今は絶賛見習い中です。」

 カズエ 「へぇ、お寺か・・・いいね。」

 ハズキ 「で、今日は何をしにここに来たの?」

 ケイ  「あ、はい。実は・・・」

 俺は今日のことを一言も漏らさないように話した。

 トオル 「なるほどね・・・事情は把握できたよ。」

 カズエ 「おそらく人の気持ちを考える訓練をしていなかったかもね・・・」

 ハズキ 「わたしも、カズエさんと同じですね。」

 ケイ  「なるほど・・・カズエさん、もしそんな人が患者としてカズエさんの病院へやってきたら、どう思いますか?」

 カズエ 「そうだね・・・かなり大変になるだろうねw実際、今の現場でも大変だし。」

 トオル 「確かに今、医者や看護師になる人が減っているみたいですしね・・・」

 ケイ  「えっ、もしかして将来になったらかなり医療は大ピンチになるってことですか?!」

 カズエ 「そうなるかもしれないね。そのことをみんなにちゃんと意識してもらって、感謝してもらいたいなぁ・・・」

 ハズキ 「そうそう、私、医療大で看護学を習っているんです。看護師ってやっぱり厳しいですよね・・・」

 カズエ 「そうだよ~特に育児との両立は超大変だから、お義母さんやお義父さんにも子育てに協力してもらえるよう、お願いするんだよ。」

 ハズキ 「わかりました。もし、夫ができたらためらわず相談してみますね!」

 トオル 「お~い、話、脱線しすぎじゃないか~?」

 ケイ  「医療現場はひっ迫して危ないんだな・・・もし、自分にできることがあったら協力してあげたい!カズエさん、俺にいち早くできる、医療のお手伝いってなんかありますか?」

 カズエ 「そうね。今はケイ君中学生だからまだ早いけど、高校生になったら『献血』に協力してほしいな。」

 ケイ  「献血って・・・?」

 トオル 「献血っていうのは、自分の血を病気とか事故で血液が必要になった時の血にあてる、つまり自分の血を無償で医療に渡すボランティアみたいな感じ。」

 ケイ  「へぇ・・・」

 ハズキ 「献血っていうのは今、とっても必要なの。献血で取った血液を待っている患者もいたりするんだよ。」

 カズエ 「それに輸血用の血っていうのは有効期限が定まってて、人工的には作れないから、定期的にしてもらうのが大切なんだ。」

 ケイ  「そうなんですね・・・よし、高校生になったら、献血をやろう!で、どこでやればいいんですか?」

 ハズキ 「例えば、住んでいる地域に献血ルームなんてある?そこに行って、しっかり検査してもらうんだ。そして、検査に合格出来たら献血ができるよ。あとたまに献血バスなんてものも来るから、色々調べてみて!」

 ケイ  「わかりました。本当にありがとうございます!起きたら色々調べてみようっと!」

 そう決意したとき、お別れの鐘の音が響いた。

 ケイ  「あ、もう、帰らなきゃ。今日はありがとうございました!」

 そうやって、僕は夢から覚めたのだった。


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