ケイの2夜目 本当の自分

「一体俺って何者なんだろ・・・?」そう考える日は少なくない。だって、俺には色々と仮面かおがあるからだ。

 ケイの母 「ケイ~、お寺のお掃除、手伝って~」

 俺んちの母さんは、親父が住職をやっているお寺の巫女なのである。

 ケイ 「はーい」

 俺の朝はお寺の掃除から始まる。お寺の東から西までずーっと雑巾がけや、ホコリはたき、そして石段(石でできた階段)を隅々きれいに掃いていかなくてはならない。だから、気を抜いて掃除をすると

 ケイの母 「ケイ、あんたまだちりが残っているわよ。ちゃんと掃除しなさい!」

 ケイの父 「ケイ、こんなに仏様に愛されている子なのに、まだわからんか!もっとまじめにやれ!将来、お寺を継ぐ身であるんだからしっかりしなさい!」

俺は本当にお寺を継ぐ気なんか一つもない。俺のいるお寺は地元民以外はあまり来ない、のどかすぎるところなのだから。しかも、俺には双子の妹と弟がいる。俺はこの双子の世話も焼かないとならないのだ。つまり俺は実質、雑用係にしかならないのだ・・・あともう一つ。それは、神様に捧げる「儀式」の練習。お父さんからかなりスパルタで練習させられる。そして、その苦労は学校のみんなに知らされないように、俺はチャラっぽいようなキャラをつくっている。こんな愚痴、ここで言ってしまったら叱られるだろうな・・・そうだ!また、あそこに行こう!

                  ☾

俺はまた布団に潜り込んで目を閉じる。そして、ズボンのポケットから鈴を取りだりて鳴らした。するとまたあの時のドアが出てきて、それを押し開いて「心のコンパ」へと向かった。そうしてカウンターに声をかけ、「ランダム」、「着替え室」、「お気に入り」のシステムを教えてもらった。早速、俺は深緑のシャツに少し暗めなうすだいだいっぽいズボンにした。

 スタッフ 「ケイさん、今回は『前のメンバー』がよいですか?それとも『ランダ  ム』にしますか?」

 ケイ   「じゃぁ、お気に入りのメンバーから『アカネちゃんとシンイチ』で」

 スタッフ 「承知いたしました。それでは2号室にどうぞ。」

俺はスタッフに言われるままに2号室へと向かった。

 アカネ  「あ、ケイ君、いらっしゃ~い。」

 シンイチ 「・・・いらっしゃい」

相変わらずアカネはおとなしくて、シンイチは暗いな・・・

 ケイ   「そういえば、言ってなかったね。俺んちのこと。」

 アカネ  「うん、聞いてないけどそれが何か?」

 シンイチ 「なんか事情とかあるの?」

 ケイ   「あ、うん。俺んち実はお寺やってて・・・」

 アカネ  「えっ!ケイ、お寺やってるの?!意外だな・・・」

 シンイチ 「お寺か・・・何年も行ってないな・・・」

 ケイ   「それでさ、俺ちょっと愚痴言っちゃうけど、だいじょぶそ?」

 シンイチ 「・・・グロくないなら・・・」

 アカネ  「自分も」

 ケイ   「わかった。ありがと。俺にはずっと言えなかったことがあるんだ。そ      れは・・・お寺を継ぎたくないってこと。」

 アカネ  「えっ・・・そうなの・・・?」

 ケイ   「ほんとだから言ってんじゃん!まぁ、そうだよな。普通に考えるなら継ぐっていうのが当たり前だもんな・・・でも、おれはうんざりなんだ!いっつもお寺の掃除でちょっとさぼったくらいで、親は大噴火。しかも、俺には双子の弟・妹がいる。そいつらの世話もいっつも俺に投げ出しして、あぁ、もう嫌になる!俺、親ガチャ失敗したかもしんない・・・」

俺はいつの間にか涙ぐんで叫んでいた。

 アカネ  「そうだったんだ・・・わかる。自分も名字のせいで玩具いじられて、親ガチャ失敗した人間かもって思った。」

 シンイチ 「そんなことあったのか・・・ケイからは想像がつかないな・・・」

 アカネ  「でも、うちはお寺っていいところだと思うよ。」

 ケイ   「えっ?」

 アカネ  「だって、お寺って言うのは何代、何代と受け継いでいくものだもん。それに、もしケイがお寺を継がなかったら、そのお寺の記憶自体、みんなから消え去ってしまうんだよ。まぁ、これはあくまでも自分のだけど。」

 ケイ   「ありがとう、こんな愚痴に付き合ってもらっちゃって。でも、なんだかすっきりしたっつーか、軽くなった気がするわ。」

 アカネ  「そうか、よかったね!」

 シンイチ 「また君のことを知れてうれしいよ。」

良かった・・・ここで本音を話せて・・・

 アカネ  「そうだ。あのね、スタッフさんから話聞いたんだけど、その話、聞く?」

 ケイ   「・・・?何?気になる~」

 シンイチ 「僕も気になるな・・・」

お、やけにシンイチ話すようになってくれた!うれしいな~

 アカネ  「うん。実はね、このコンパではいろんな専門家を呼べるらしいの!」

 ケイ   「例えば?」

 アカネ  「自分が知っているのは心理士の先生とを見てくれる先生だけしか・・・でも、実際ほかにもいるみたいだよ。」

 シンイチ 「ふーん、今度その心理士の先生、紹介してくれる?」

 アカネ  「もちろんいいよ。でも、やっぱりベテランとかがそろう『ランダム』っていうやつを選んだ方がもっと詳しく知れると思う。」

 ケイ   「そうなんだ~。んじゃ、今度は『ランダム』でやってみようかな!」

すると、鐘がボーンボーンと鳴った。「はぁ~もうすぐ起きなきゃならないのか・・・」やっぱり仲間と別れるのは名残惜しい。でも、その分会えたら嬉しいって言うからな!

 ケイ   「じゃぁな!」

俺は一言言ってからドアを開けた。

               ☼

・・・う~ん、よく寝たなぁ・・・今日もまた掃除をさせられるだろうけど、前よりかは楽にできそうだな!

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