ホランの2夜目 悪夢

 「今日もコンパ行けるかな・・・?」なんて想像しながら今日もまた部活に励む毎日。「あそこって『を通わす』って書いてあったから悩みとか言い合うところなのかな・・・?」

「おい、ホラン!毎度サーブ見てレシーブせんか!」

 えっ、あ、そうか考え事してたから、ボールが見えなかったのか・・・

「すみませーん」

 と適当に謝った。彼は中学の運動部で一番怖いコーチ、「小関宗次郎こせきそうじろう」だ。みんなはあいつのことを王様のような振る舞いからひそかに「コセキング」省略して「コセキン」なんて呼んでいる。コセキンは今、六十ちょいらしいが中学時代に全日本を制覇したという。そのことがあってか、毎年、いや、毎週、いやいや、毎日どの学校からも引っ張りだこなのである。

「ったく、だから最近の若者ってのは・・・」

 その時カチンときた。それとこれとは関係ないやろが!と言いたいところではあったが、もしコーチに逆らったらどんな罰を受けるのやら・・・?

「本当に申し訳ございませんでした!」

 今度は半分本気で謝ってみた。

「謝罪はいいからボール拾え!」

 本気の意味がなかったらしいがまぁ、いいや。でもやっぱりあのコーチがいると嫌だな・・・人前では言えないし・・・そうだ!「心のコンパ」に行けばええやん!

                 ☾

 そうして眠りについたのはいいのだが、実はうちにはあともう1つ悩みがあるのだ。そのもう1つの悩みも解決してもらおう!自分は夢の中でしか使えないパジャマの胸ポケットに入っていた鈴を夢に入る寸前に鳴らした。すると、一瞬にしてあのドアの前に来ていた。そのドアを押し開くと、昨日の夜と同じ「心のコンパ」に来ていた。そして、カウンターにいるスタッフに声をかけた。

 ホラン「あの、昨日から来たホランなんですが、今日も利用させてください!」

 そうすると、スタッフさんは

 スタッフ「いいですよ。では、前回の新規メンバーがよろしいですか?それともランダムでよろしいでしょうか?」

 何、「ランダム」っていうの?それが気になって、

 ホラン「あの~、ランダムって何ですか?」

 と聞いてみた。するとスタッフさんは優しく丁寧に説明してくれた。

             ~中略~

 なるほど、だから「心のコンパ」って言うのか・・・

 ホラン「そうですか!ありがとうございます!」

 そういってまずは、「着替え室」と言うところへ行っていつもの私服、マゼンタ色のTシャツに白のパーカー、くすんだ青のジーパンに着替えて、フロントへと向かい

「じゃぁ、普通に『ランダム』でお願いします。」

「承知いたしました。では8号室へどうぞ。」

 とスタッフさんは言ったので8号室に向かった。昨日と同じような部屋だが、メンバーが異なっていた。

「いらっしゃーい!」

 と高校生くらいの人達が歓迎してくれた。さっき「いらっしゃーい」って言ってた人はリンさんというらしい。

 その他に少しお調子者のリョウさん、サッカーを続けてきたシュンさんと、うちを合わせて4人だ。必ずしも6人とは限らないんだな・・・

 ホラン「えぇっと、皆さんはお知り合いなんですか?」

 そううちは話の切り出しに言った。

 リン「そうだよ~幼馴染なんだ~!」

 と返してきた。いいなぁ、幼馴染って。

 シュン「ねぇ、ホランちゃんって何か悩みってある?」

 マジックかなんかで心を読み取られたようでドキッとした。

 ホラン「えっ、なんでわかるんですか?!」

 リョウ「簡単なことだよ。だって、ホランちゃん、ちょっと浮かない感じしてたし。」

 これは打ち明けるしかないと思い、みんなには言ってこなかったもう1つの悩みを言った。

「実は・・・うち、最近悪夢を見やすくなったんです。」

 やっぱり、言わない方がよかったかと後悔しそうだったが、予想外に3人は自分の悩みにうなづきながら、

 リン「そうか・・・辛かったよね・・・」

 リョウ「でも安心して、ホランちゃん。」

 シュン「俺たちと話して、少しは楽になっただろ?」

 本当だ。なんでかわからないけど心がすっきりしてきた。

 リン「あ、そうだ!知ってる?実はここでいろんな専門家をコンパに呼び出せるの!」

 そうリンさんは思い立ったように言った。

 ホラン「な、何ですか?その専門家って?」

 リン「まぁ、見てみればわかるって!」

 そうすると部屋のひと隅にインターホンっぽいボタンがあるのを見つけた。リョウさんは、察したかの如くボタンを押して、

 リョウ「もしも~し。オニロ先生いますか~?いたら8号室までお願いしま~す」

 と誰かと話していた。すると、3分ぐらいで

「失礼します。」

 とバクの耳と尻尾を持った若い男の人が来た。高校生でもないまさに青年って言う感じだった。その男の人は先生と言う割には白衣も着ず、薄い水色のワイシャツにグレーのズボンを穿いていて結構ラフな感じだ。

 ホラン「だ、誰?」

 と固まりそうになった。でも、すかさずカバーしてくれた。

 リン「あ、この人がさっき言った専門家の1人、夢のことならいろいろ知ってるオニロ先生だよ。」

 そう説明し終わってすぐに、

 オニロ先生「はじめまして、ホランちゃん。僕はリンちゃんに説明してもらった通り、夢のことを研究しているオニロといいます。よろしく。」

 そうほほえましい表情で話してくれたのでこっちもちょっと安心したのか

 ホラン「よろしくお願いします。」

 と素直に出てきてくれた。そして、オニロ先生に自分が悪夢を見やすくなってきていることを話したら、

 オニロ先生「そうか・・・辛かったよね・・・怖かったよね・・・でも、大丈夫。一緒に乗り越えよう!」

 そんな明るさに励まされた。これだったら、何とか乗り切れるかもしれない!

 オニロ先生「早速なんだけど、次回から一緒に悪夢の治療をしていくんだけどいいかな?」

 そんな質問の答えは1つしかない!

 ホラン「わかりました。おねがいします!」

 と精一杯のお願いをした。すると、鐘がボーンボーンと音を立てた。そろそろお帰りの合図か・・・そう思って名残惜しくなるとオニロ先生が

 オニロ先生「あ、そうそう次回からの宿題だよ。できるだけその悪夢の内容を思い出してきてほしいんだ。いい?」

 ホラン「分かりました。」

 自分はそう返してドアを開けた。

                 ☼

 ふわぁ・・・なんか心が軽くなったな・・・よし、今日の夜は、しっかりオニロ先生と悪夢の治療、頑張らないと!

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