第22話 お前には勝てない

「そういえば、2人は僕なんかと一緒に弁当食べて大丈夫だったの? いつも一緒に食べてる子たちは?」


「んーまあ、たまにはいいかなって」


「俺も俺も。毎日一緒ってのもな」


へえ、そんなものなのか。


クラスの仲良しグループって、少しでも離れたら気まずいものなのかと思っていたけど、さすがリア充たちだ。


そして僕達3人は再び箸を動かし始めた。


だけどその裏側で僕は急に不安になる。


弁当の時間って、何喋ればいいんだ?


今までボッチ飯しかしたことが無かったから、話題なんて思いつかない。


ほんの一瞬の沈黙が、僕にとっては永遠のように感じられる。


何か話さなきゃと僕が追い詰められたその瞬間だった。


神崎さんがお茶を飲もうとしたのか箸入れに箸を置いて、その箸がバランスを崩して斜めになる。


机から滑り落ちそうになった箸に向けて、僕は慌てて手を伸ばした。


「あっ、ヤバ」


神崎さんも箸が落ちそうになっているのに気付いて、勢いよく動き出す。


そして何が起こったのか、神崎さんの腕が弁当箱を振り払い、弁当箱が空を舞った。


「高見っ」


池田君が鋭く叫ぶ。


そして弁当箱は、姿勢を低くしていた僕の頭の上にテン、と音が鳴りそうなほど完璧に着地した。


場が静まり返る。


沈黙を破るように僕は聞いた。


「み、見えないんだけど、神崎さんの弁当無事?」


ぶほっと神崎さんが噴き出す。


「ごめ、高見、ぶほっ、あり、ありがとう」


神崎さんが笑いながら僕の頭から弁当箱を取り上げた。


どうやら弁当は無事だったみたいだ。


ふと横を見ると、池田君もお腹をかかえて震えていた。


池田君が苦しそうな息の合間に呟く。


「やっぱ高見、お前すげえわ。勝てねえ」


それからは自然と会話が弾んだ。




僕は知らなかったけど、昼休みの会話って特別な話題じゃなくて良かったらしい。


数学の先生の話とか、話題の配信者の話とか、好きなお弁当のおかずの話とか。


くだらなくってどうでもいい話ばかりだけど、次から次へ話題を変わる瞬間が楽しくって、胸が温かくなる。


だから僕も勇気が出たんだと思う。


話が途切れたタイミングで僕は言った。


「相談があるんだ」


「え、なになに?」


神崎さんが身を乗り出す。


「あ、ここじゃちょっと」


僕は背後を気にしながら小さな声で答えた。


視界の端に雨宮さんの姿が映る。


雨宮さんは昼食をとらなかったのか、じっと机に座って本を読んでいた。


「じゃあさ、放課後にクレープ食べに行かない?」


神崎さんがやけに嬉しそうに僕に顔を近づけて囁く。


「いいねえ、クレープ」


すかさず池田君が口を挟んだけど、神崎さんは横目で池田君を睨んだ。


「池田は部活だろ?」


「ぐ…」


池田君、かなり悔しそうだ。


「決まりな」


対照的ににこやかな神崎さんが言う。


「放課後、教室で待ち合わせ。いいでしょ?」


神崎さんの笑顔に向かって僕は頷いた。

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