第21話 広義のキャラ弁
それからは割といつも通りの日常だった。
退屈な授業を聞いて、途中途中の休み時間は本を読んでやり過ごす。
それにしても、僕みたいな学生にとって一番しんどい時間は、休み時間かもしれない。
休み時間のたび、周囲の生徒達は決まった友達と騒ぎ合う。だけど僕にその相手はいない。
僕はただ息をひそめて、気にしていないふりをして時間が経過するのを待つ。
それでも授業の合間の10分間の休みはまだマシだ。
1時間もある昼休みをいったいどうやり過ごせばいいのか、僕はいまだに分からない。
お弁当を食べ終えると、僕はすぐ机に突っ伏す。
周囲なんて気にかけず、眠くてたまらないんだというように。
本当に眠ってしまう時もあるけれど、大抵は気まずさのせいか眠りに落ちることは無かった。
僕は腕と頭で作った暗がりの中で息をして、僕には一生関係ないだろう笑い声や会話を聞く。
今日もそんな昼休みになるはずだった。
だけど昼休みを告げるチャイムが鳴り、僕が憂鬱な気持ちで教科書をしまった時だった。
「「高見」」
2人分の声がして、僕は顔を上げた。
「今日2人でお弁当食べようよ」
「一緒にメシ食おうぜ」
僕の目の前には、自分の弁当箱を手にぶらさげた神崎さんと池田君がいた。
「え?」
僕がぽかんと口を開けるのと同時に、神崎さんと池田君もお互いのことに気付いたのか、顔を見つめ合った。
気のせいか、2人の間で視線がバチバチと音を立ててぶつかったように感じる。
「なんなの、池田。アンタ別に高見と仲良くないじゃん」
神崎さんは笑っている。でもなんか、目が笑ってない。
「神崎だって、昨日まで高見と話したこと無かったんだろ?」
池田君も爽やかに白い歯を見せる。でも小さく舌打ちしたのが聞こえた。
いやなんか、2人とも怖くない?
僕は慌てて、変に上ずった声で言った。
「ま、まあまあ。えっと、3人で食べる?」
言ってから急に恥ずかしくなった。
出しゃばった真似をしただろうか。こういうことに僕は慣れていない。
っていうかお礼も言わず当然のように一緒に食べる雰囲気を出したけど、傲慢な奴だと思われないだろうか。
僕の頭が1人でぐるぐると空回りしている間に、結局2人は納得してくれたらしい。
「ん、そだね」
「まあ、しゃーねーか」
2人が僕の机の周りに追加の机と椅子を寄せ、自分の席を確保し始める。
そして2人は椅子に座って弁当を広げ、示し合わせたみたいに同じタイミングで手を合わせた。
「「いただきまーす」」
「い、いただきます」
普段できるだけ目立たないように弁当を食べていたから、僕には声に出していただきますを言う習慣が無かった。
そのせいで出遅れたけど、2人は気にしてないみたいだ。
僕はほっとして、ようやく自分の弁当箱に手をかけた。
神崎さんがやけに楽しそうに僕の弁当をのぞきこむ。
「高見って普段どんな弁当食べてんの~、ってうわ」
神崎さんが目を見開く。
僕も弁当箱のフタを手に持ったままフリーズした。
ご飯の上に、ピンク色の桜でんぶで大きなハートが描かれている。
さらにその中心部には海苔で作った「マコトくん LOVE」の文字があった。
ちょ、義母さん…
「えーと、あれだな。愛情深い母親なんだな」
池田君が言葉を選んだように言う。
「い、いつもはそこまでじゃないんだけどね」
血がつながっていないことを言うと余計ややこしくなりそうな気がして、僕はとりあえずそれ以上は触れないことにした。
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