第20話 主人公は窓際に座りがち
教室の後ろの扉をくぐり、僕はできるだけ目立たないよう静かに自分の席を目指して歩いた。
席順はくじで決めるから、運の悪い僕の席は常に不人気な中央部分だ。
窓際とか最後尾とか、そういう人気の席には座ったことがない。
僕が教室の後ろの方を歩いている時だった。開け放たれた窓から強い風が吹き込んだ。
掲示板に張られたプリントが風に吹かれてふわっと浮く。
ぴん、と画鋲がはじけたのを見て、僕は深く考えずにそちらに足を踏み出し、左手で風に舞ったプリントを捕まえた。
「きゃっ」
「わっ」
やわらかい何かにぶつかる衝撃があって、細身の女の子が僕の足元に転がった。
僕の血がさあっと引いていく。
雨宮さんだ。
うかつだった。飛んだ紙に気を取られて、周りを見ていなかった。
神崎さんがスクールカーストのトップだとすれば、雨宮さんはまた別枠のトップに違いなかった。
物静かで、優等生で、休日には花を生けてそうな雰囲気、と言えば分かるだろうか。
クラスの中で自然と特別視される存在。
そんな彼女を、僕みたいな奴が転ばせるなんて。
「ごごごごめん。大丈夫? 怪我してない?」
僕は慌ててしゃがみ、彼女に右手を伸ばした。
いやでも、僕なんかに触れるの嫌か?
「私の方こそ、ごめんなさい。ちゃんと前を見ていなくて」
さすが雨宮さんだ。彼女は嫌な顔もせず、なんならうっすらと微笑んで僕の手を握った。
ひんやりとした細い指先が僕の手を包んで、自分で手を出しておきながら僕はドギマギしてしまう。
彼女を引っ張り起こしながら、僕はふと傍らに落ちた雨宮さんの鞄に目をやった。
鞄の口が開いて、中からノートやプリント類がはみ出している。
あれ、あの用紙って…
僕の視線に気付いたのか、雨宮さんがはっとした顔で僕の手を離し、胸元に抱え込むようにして鞄を抱き上げた。
「雨宮さん、それ」
「何でもありません」
それきり顔を上げず、雨宮さんは自分の机に向かって行ってしまった。
気になったけど、僕がどうこう言えることじゃない。
僕はさっき捕まえたプリントを掲示板に張りなおして、それから自分も席に座った。
それからふと考える。
運が良くなったはずなのに、人にはぶつかるんだな。
僕は少しの間思考を巡らせたけど、それ以上深く考えるのはやめた。
ずっと運がいい人なんていない。たまには運の悪いことだってあるんだろうさ。
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